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ふわふわとした地面を私は飛び跳ねるようにして歩いた。それだけで楽しい気分になってくる私は単純だろうか。
「下界の月よりは重力がありますが、地球よりは少ないんですよ。」
アライグマに翼を付けた生き物が説明する。彼は自分のことを天使だと名乗ったが、私は信じていない。天使は美男子でなくてはならない。アライグマなどでは満たされない。そうでなくては何のために乙女心を押さえつけて生きてきたのか分からないではないか。
「アライグマが喋ったー。立つだけでも凄いのに!なんて可愛のか。」
マホも飛んだり跳ねたりしながら楽しんでいるようだ。天国は広かった。特に垂直方向に広い。天にはその中にまた高さがあり、ふわふわの地面が層を成している。
「しっかし。天国って何もないとこだね。」
マホがアライグマをわしと抱きしめながら言った。
「何もないなんて、とんでもないです。天国には必要なものは何でもあるのですよ。何不自由ない満たされた世界なのですから。」
「えー。じゃあまずはデザート!プリンを死ぬほど食べてみたい。」
マホの言葉に私は激しく同意した。
「プリンですか...。」
「早く出してー!何でもあるんでしょー。」
「コホン。もちろん必要なものは何でもありますよ。ところで、マホさんはお腹減ってますか?」
天使のアライグマは大義そうに言った。私はお腹に手を当てたが空腹感はなかった。むしろフレンチのフルコースを食べてコーヒーを一服した後のような満たされた感じさえする。
「お腹は、減ってないね...。」
マホも同意のようだった。
「そうでしょう。そうでしょう。」
アライグマはしたり顔である。
「じゃあさ、バナナボートは?」
「乗りたいですか?」
「ん...、そうでもないか。じゃあ、美男子の天使を出しなさい。」
「ここにおりますが。」
「アライグマではなく。」
「冗談です。良いでしょう。少しそこに横になって下さい。」
「横に?いきなり?ちょっとまだ恥ずかしいんだけどな。でも良いか。天国だもんね。」
私はマホと並行に並んで横になった。ふわふわの地面はベッドにもなるようだった。寝そべると温かくて気持ちが良い。段々と何がどうでも良くなってくる。
「マホさん。美男子の天使は必要ですか?」
「うーん。もうちょっと後でも良いかな。」
マホがのんびりと言った。ダメだ。私たちはアライグマに化かされている。
「アキさん。あなたはどうですか?」
「私は...。」断固として必要だと口を開こうとしたその時、私は腰のあたりにジワリと温かいものを感じた。何と心安らかな気持ちだろうか。イケメンだの何だのと言っていたのが、嘘みたいだ。私は満たされていた。
「分かりましたでしょう。天国では必要なものはいつだって心の中にあるのです。」
悔しいがそれは本当だった。私は幸せで、どんな欲望も乾いた砂に水を注ぐが如く消えてしまう。
これが天国。不幸はそれぞれに不幸だけれど、幸せは単一の完全な状態であるようだった。私の想像していた天国とは違ったが、しかしここは想像よりも遥かに幸せな世界だった。
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