めぐり雨

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 和子は汀に深々と頭を下げていた。  外では、夜の静寂(しじま)に雨がいつまでも降り続いていた。  亡き子が帰る。  そんな伝承が滋賀県のある地域にある。  その年に死んでしまった子供が帰ってくると言われるもので、お盆の時期に、大雨が降ると、その雨に乗って幼くして死んでしまった子が、冥界から帰って来るのだ。死んだ子供は、家の玄関の前までやってくるが、この時、決して戸を開けて中に招き入れてはならない。死んだ子供を招き入れてしまうと、一家全員が一ヶ月以内に死んでしまう為だ。  死んだ子供は、親や兄弟が恋しいがために、生者を自分の住む世界に連れて行こうとする。  どんなに恋しくても、どんなに会いたくても、家の外で子供の「ただいま」の声が聞こえても、家族は耐え、親は我が子が家の前から去るのをじっと待つしかないという。  月夜汀は、風の便りに和子のその後を聞いた。  あの日から丁度、一ヶ月目に日花和子は亡くなった。  布団に横になったままの状況から、就寝中に亡くなったと思われるが苦しんだ形跡はなかった。  生前と変わらぬ和子の姿と表情は、喜びに満ちた笑顔であったという……。
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