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和子は25歳で日花家に嫁入りし、27歳の時に娘を産んだ。あの日から単純に10年も経つのだ。
子の成長を願わない親はいない。
成長していく娘の姿に、和子は喜びを感じていた。
――――喜び
和子は、ふと考えて茶碗を洗う手が止まった。
家庭によっては違うが、日本の食卓には自分だけが使う食器・属人器という文化がある。家族一人一人に茶碗や箸があり、所によっては焼き魚を乗せる皿も違うということもある。
色や素材感、テイストなどを似た雰囲気にあわせつつも、一人一人にあったサイズやデザインの食器を組み合わせることが多い。
和子の家庭では、その属人器の文化があった。
和子は、自分の茶碗を洗うと、水切りカゴに家族の茶碗が並んだ。
義両親の2個。
夫と和子の2個。
そして、娘の1個。
和子は食器棚を見る。
そこには、子供サイズの小さな茶碗が1個あった。
見つめていると和子は目に涙が滲んだ。胸が締め付けられる。思い出の深みに沈みそうになる。
不意に、来訪者を告げるチャイムが鳴った。
和子が、壁掛け時計を見ると時刻は、午後6時24分であった。決して遅い時間ではないが、さりとて来訪者が来るには、やや遅い時間でもある。
しかも今日は、例年にない大雨の為にいつもよりも日が落ちるのが早く、すでに夜の帳が下りていた。
暗く、大雨の時期に……。
和子は、そう思いつつも寝間着を持って、風呂上がりの準備をしていた娘・知子に声をかけた。
「ごめん知子。お母さん手が離せないの、玄関の方を見てきてくれる?」
「うん。分かった」
知子は、食卓の上に寝間着を置くと、玄関へと向かった。
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