1人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうして。泉太が帰って来たんですよ。家に入れてあげないと。……そうだ、おやつ。あの子の好きなプリンを作ってあげないと。あの子、私の作ったプリンはお店のより美味しいって……」
和子は動揺しながら喜び、人影に声をかける。
「おかえり泉太」
「和子さん!」
義父は和子の口を塞ぐと、恐ろしい表情をしたまま家族全員に向かって家の奥に向かうよう指示をする。
和子は義父に引きずられながら、仏間へと移動していた。
義母は相変わらず念仏を唱え続け、夫は娘を抱きしめながら大丈夫大丈夫と呪文のように言い続けていた。
「どうしたの、みんな。こんな大雨の中を、泉太が帰ってきたのよ。どうして入れてあげないの」
和子が再び玄関へと向かおうとすると、義父がその前に立ち塞がった。
「和子さん。あれをよく見ろ」
義父は仏壇にある写真を指差した。
そこには、写真があった。
白黒の写真。
違う。
それは写真は写真でも、別の名がある。
遺影
子供の遺影があった。
和子の息子・泉太の遺影。
「……泉太は、死んだんだ。病気で」
和子は、思い出す。我が子を病気で失ったことを。
まだ6歳だった。
泉太が生まれた時、跡取りができたと義両親の喜びようは、お祭りどころではなかった。
親バカという言葉はあるが、孫バカとも言える程に、自分の孫を近所の人に自慢しては溺愛していた。
それが……。
和子は、その場に崩れた。
思い出す。
昨年のことを。
最初のコメントを投稿しよう!