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和子の固い決意に、汀は何も言わなかった。
降りしきる雨は止むことを知らず、永遠にこの時間が続くと思われていたが、不意に玄関のチャイムが鳴った。
家屋の中に静かに染み渡るように。
和子は、立ち上がった。
玄関へと走り出す。
廊下へと出ると、その先に玄関があった。
中から外を確認できる格子戸は変わらないが、玄関の扉は木製から頑丈な金属製に変わっていた。ガラスも防犯ガラスにし、鍵は昭和に見られたネジ締り錠ではく、シリンダー錠にし、内側からの施錠は計四箇所もある特注のものになっていた。
あの日以来、義父は外からの侵入をされないよう、老後の貯金を引き出し、玄関に及ばず勝手口、縁側の雨戸、二階の窓に至るまでを取り替えるに至っていた。
玄関先の照明によって、ガラス越しに小さな人影が見えた。
誰かは分かっていた。
「泉太」
和子は人影に呼びかける。
すると、人影は応えた。
「……お母さん」
と、そして続ける。
「ただいま。お母さん。……お家に入れてよ」
人影の呼びかけに和子は、脚を進める。
恐怖は無い。
むしろ、喜びと嬉しさが込み上がって来る。
この時を、そうしたかったことがようやくできるのだ。
玄関前まで着くと和子は、屋内側のサムターンを次々と解除し、全ての鍵を解いた。
カシャン
最後の鍵が外れる音が響く。
和子は玄関の取っ手に手をかけると、そっと玄関を開いた。
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