めぐり雨

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 雨が降っていた。  家の中でも、雨音が聞こえてくる。  屋根を叩く。  壁を叩く。  窓を叩く。  あまねく世界に雨は降り注ぐ。  外出時に遭遇する雨は、傘を差し、身体や荷物が濡れないかと気になるので生活のしづらさがあるが、部屋の中で雨音を聞くのは、どことなく心地よい。  シトシトと降る程よい雨音は、日常では聞くことのない音に包まれる。  雨といえば良い天気とは言えないが、雨が降らなければ草木が枯れ、川や池で生きている動物も死んでいく。  だが、薬も過ぎれば毒となる。  という故事があるように、雨も度が過ぎれば害悪となり、土砂崩れ、洪水、浸水、鉄砲水など様々な水害を引き起こし、降り方次第では恐怖を感じるものとなる。  今日は、それを感じるような大雨だ。  叩きつける雨音がいつもよりも大きく、その些細な振動が伝わってくる。雨樋からは許容量を越える雨の量のために溢れ、道路は川のように見えた。  日花和子(ひばなかずこ)は、一家団欒の夕食を終え食器を片付けていた。  8月も半ばになったが、まだまだ暑い。夕食を、ざる蕎麦などにしようかと思ったが、今日は冷たい梅干し茶漬け、しじみの味噌汁、カボチャの煮物、ほうれん草ゴマ和え、ぬかみそ漬けにした。  和食の基本と言われる一汁三菜だ。  麺類の献立では、おかずの品数が少なくなる傾向になる。夏だからと毎回の食事を単品の麺類で済ませていると、栄養不足からくる夏バテになる。暑いからこそ、栄養の偏りや消化管の不調などの原因にならないよう、義母と話し合った献立だ。  義両親は風呂も済ませ、後は夫が上の女の子をお風呂に入れてくれる。娘も今年で小学4年生になったが、未だに父親と風呂に入りたがる。自分は娘の教育や学校の成績に厳しく、逆に夫は娘に甘く溺愛しているだけに娘は父親のことが好きなのだろう。歳を考えれば、もう父親と風呂に入るのは今年が最後だろうと思った。
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