第二章 悪夢のカコ

1/14
前へ
/100ページ
次へ

第二章 悪夢のカコ

 バチン!  ふと。  強い静電気が走った時のように。  の脳内に電気のような何かが走って── 「あ……?」  光。  日光。  付け加えて言えば朝日。  俺にとって、世界に色があるくらい常識的な光景で、とても良く見慣れた光景で、だからこそ驚いた。  。  何故。色のある、しかも── 「俺の……部屋なンだよ?」  見間違えるはずがないし、決して寝ぼけていて、今までの全てが夢だったなんて事でもない。妄想でもない。幻覚でもない。 「蒼月は……ッ!?」  急いで周りを見渡すが、彼女の影もない。 「いや、ンな事あって良い訳がねぇッ!」  怒りと焦りが乱雑にかき混ざったような声を出しながら、俺は自立していた姿見の前に躍り出る。そして、俺は姿見の中の青年を見た。  素っ気ない一般的なの。  同じく一般的なの。  そんな青年(おれ)がそこに写っていた。  「嘘だ……」  心臓が早鐘のように打つ、なんて言葉がある。  実際に初めて化け物と戦った時に、それがただの比喩表現ではないと俺は思い知っていたし、知っていたけれど──それとは別の意味合いで。  痛いほどに心臓が打っている。  心臓が──暴れている。  まるで無いはずの現実(もの)に反応するように。  そこに迫る危機を感じ取って。  まるで、早鐘のように。 「いや、待てよ。だったら日付はッ!」  カレンダー。  その日付は。   「三月の十日……?」 『陽くん、明日は大学で待ってるね』  フラシュバックする。  確か、その日の前日はそんなことを言われたはずだ。  誰のことかなんて思い出さずとも分かる。 「……!」  息が詰まる。  それでも、足は止まったままにはしたくなかった。  理由がどうであれ、そういうことなら。    疑問を抱く時間はない。  咳き込むように息を吐き捨て、俺は、ざっ、と。  振り向いて、ドアノブを握った。  大丈夫。  。  いや、だからこそ変わらないはずだ── 「ん……? 張り紙……?」  そうして初めてドアに紙が張り付けてあるのが目に入る。 『まずは大学で可愛い彼女と出会って』だ? 「で、『追伸。いいな、あんな可愛い子が彼女で。アタシだったら彼女の匂いをhshs(はすはす)して……」  他にも何か書いてあった気がするが、読むのを止めた。  お巡りさん、こちらです。  というかインターネットスラングを紙に書くな。媒体が全く違うだろうが。そういうのはインターネットに書き込め。お前の変態性が分かってしまった自分が嫌になるじゃねぇか。  そこで俺は、自分が多少なり落ち着いていることに気付く。 「はあ……焦ってた自分が馬鹿に思えてきた」  とりあえず記憶からしても、この張り紙からしても大学に行かなければならないことは明確だった。どんなことが待ち受けているかなんて、もちろん分からない。それでも、やるべきことがあるなら。  そんなわけで──ドアノブをゆっくり回してその先へ。  案の定というか、あのビルの外ではなく、リビングだった。念のために他の張り紙や手紙はないかと見まわしたが、結局無かったため、そのまま玄関にかけてあった自転車の鍵を取る。  そして隣にあった家の鍵と少し睨めっこして──おそらく張り紙がなかったらしなかっただろうが──結局は戸締りをしっかりとして外へ出た。  十階建てマンション、その九階。  とても見晴らしが良い。  ずっと続くと思っていた世界の、平和な風景。   ふと眼下に人の姿が見えた。  つまりは、むやみに刀を取り出したり、能力を行使出来ないということだ。本当の人間かどうかすら、まだ確定したことでもないが。  と。  一応能力は使えるのかと一瞬刀を取り出そうとして、取り出せないことに気付く。いつもなら息をするように出来るはずなのだが。 「……『神性』が、ない?」  そもそも燃える炎のような髪や目の色になったのは、それを手に入れて能力やら魔法やらを使えるようになったからだ。黒かった時点でもしかしたらと思ってはいたけれど、どうやら本当にそうらしい。 「ただの人間ってワケか。いいぜ、上等だ」  俺は見慣れてはいるものの、まだ謎の多い世界へ、足を踏み出した。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加