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『鍵』というものは、施錠された扉を開けるものだったり、キーパーソンという言葉があるように『重要』だとか『大きな影響を及ぼすもの』を指し示すものだったりする。
「それは……どういう意味で、だ?」
だから、俺はあえてその意味を問う。
どうやら質問して正解だったらしい、神門は上機嫌そうに微笑んで答えた。
「んー色んな意味で、かな。そうだ! アタシの『世界』の話をした方が手っ取り早いね」
神門は──大袈裟に手を打った。
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに。
「アタシの世界には『ゲート』ってものがあってさ。実体を持たないソレが開くと異界と繋がる。そうなると『門』を中心にして世界の法則、正確には物理法則が塗りつぶされて──」
そこまで言うや否や、神門はフッと視線を外す。顎に手を当てて数秒、それは戻ってくる。
「あー……捲し立て過ぎたかな」
慣れない単語とその原理説明に、個人的には物理の授業を思い出していた──肝心の答えが見えてこないように感じてはいたが。
「なら、要点としてここだけ聞いて欲しい」
そんな俺の考えが表情に出てしまったのか、神門は少し苦笑して、念を押して告げる。
「アタシたちは、本来起こらない事が起こる領域を『特異化領域』と呼んでいる」
『本来はきっとキミが特定の場所に到達した時に、そういった現象が起こるようになっていた』
「さっき言ってた『特定の場所』ってのがそれの事か? 俺が行ったら戦闘が起こる仕組みの……」
神門は首を縦に振って肯定する。
どうやら俺が思っている以上に複雑怪奇な仕組みの結界らしい。おそらく特定のキャラで行くと発生するイベント戦みたいなイメージだろう。
「だからこそキミは鍵なんだよ。アタシがその場所を見に行っても、何も起こらなかったし」
彼女は少しつまらなさそうな顔をした。
「まさに門を開く鍵であって、キーパーソンとも言えるって訳か。悪夢はまだ終わらねぇってな」
「だからキミには、この結界に点在する……便宜上『特異化領域』と呼ぶソレを突破して欲しい」
俺にはそれが単なるお願いには思えなかった。
かと言って強制だとか脅迫だとかにも思えない。
おそらく彼女だけでも突破出来る……それでも俺に、理由は不明だけれど正攻法で攻略して欲しいという意志の尊重があるような気がした。
「良いぜ。今度こそ、救ってみせる」
目的も原理も不明だった以前とは違う。
悪夢に変わりはないものの、何をやれば良いのか分かっただけで十分だ。結局、俺に残った最期の約束が、正確にはその光景が、俺にそう口にさせた。
「あと、これはキミたちからしたらとってもどうでも良い事なんだけど……アタシのモチベーション的な問題があるから、この世界の名前を──」
『龍星崩滅世界Scarlet』
「──と呼ばせてもらうよ」
りゅ……何?
「何だよ、そのゲームのステージ名みたいな奴」
「攻略対象に名前は欲しいでしょ?」
分からない訳ではないが。
どう反応しようか迷う。単純に自分のいた世界に名前を付けられた事実に戸惑っているのもある。でも、これは、この感情は……怒りか。自分が命を賭けた世界、そして全てを失った世界を小馬鹿にされたように感じたからか。
「遊びなんかじゃ、ないんだぜ?」
分かってはいる。
神門も現人神な以上は世界を救っていて、きっと決して生半可な覚悟でやり遂げたものじゃないはずだ。それでも俺の口は言葉を漏らしていた。
「……そう。けれど遊びだったんだよ」
笑顔に変わりはなかった。一般的に見れば今までと大差ない表情だ。
俺は別に賭け事が上手い訳ではないが、それが偽物に見えた。杞憂だったり、ただ俺が疲れているだけかもしれないけれど。
詳細は聞きたい。しかし聞いたところで現状が変わるはずもない。
それに、彼女自身が「適切な手を、適切な順番で。それが『パズル』の基本だから」と言っていた事から考えるに、いつか話してくれる気がする。
「そうか。とりあえずその『特異化領域』とやらの位置を教えてくれ」
「おけまる。ではでは、休憩したら作戦開始といこう!」
悪夢はまだ終わらない。それでも道筋は見えた。
いつかの後悔を覆すために、俺は頷いてみせた。
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