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休憩……とか言われてもな。
あの言葉の後、神門は一時間後には戻ってくるとか言い残して出て行ってしまった。なんでもカップルの邪魔はしたくないらしい。
「分からないよね。でも休める時に休んでおかなきゃ、動きたい時に動けないでしょ?」
安全地帯にやってこれた事で、緊張感は大分緩んだ。ただ、それが原因だろう。緊張と興奮で隠せていた疲労がドッと押し寄せて身体が重い。
「そーだな。喉も乾いちまったし」
きっと、奏は事情を飲み込めていない。
神門の会話に口を挟まなかったのは、挟めなかったから……だから彼女なりに解釈するため、俺の隣で静聴していたのだ──と思う。
「なら、イチゴオレ取ってくるね〜!」
とてとてとて、と。
俺の隣から立ち上がった奏は、ペンギンを思わせる軽い足取りで冷蔵庫へ向かっていく。
そういえば、俺がイチゴオレを飲み始めたのは彼女の影響で、ここに来る度に要求されるのもあって冷蔵庫にある程度ストックしてあったっけか。
イチゴオレ、か。
「あった〜! 選ばれし者の知的飲料なのだ!」
お目当てのものを手に取った奏が、満面の笑みで戻ってくる。少し大きなサイズの、コンビニで売っている紙パックのものだ。
何の変哲もない、特別な意味合いもない。
けれど今の俺には思い当たる節がある。
『……分かった、イチゴオレで』
蒼月天音の事だ。
無口に無表情、ドレスを着ている事も相まっておとぎ話の姫様に見える少女。物騒で物理的な出会いをした彼女とまだ再会出来ていない。
「お待たせしました~!」
紙パックが二つ、背の低い机に置かれる。
普通に受け入れていたが、この結界では飲み物も再現されるのか。
どうやら食料や飲料の問題は杞憂に終わったらしい。
「……おう、ありがとう」
「どういたしまして。ちなみにちなみに……」
そのまま座らずに目の前まで距離を詰める奏。
俺はまだベットに座っているために、彼女を見上げる形になる。
スッと細められた目には、身構える俺が写っていた。
「……陽くん、女の子の事を考えてたでしょ?」
杞憂に終わらないであろう問題に表情は曇っていたとは思うけれど。
決して鼻の下を伸ばして蒼月の事を考えていた訳ではない。
「え、顔に出てたか?」
彼女が俺の脳内を読み取ってくるのは日常茶飯事だったから(要するに慣れのせいで)そこまで驚きはしないが。普通、表情から読み取れる情報ではないだろ──と、ニヤニヤしながら離れていく奏に問いかける。
「女の子は女の子に敏感なのだ〜!」
机の向こう側に腰を下ろした彼女は自慢げに答えた。仮に漫画だったなら、おそらく『えっへん』と効果音がついている。
それはそれとして。
そのキャラなんなんだよ、可愛いな畜生。
「まあ、女の勘は鋭いって言うからな」
「ふふふ……それで、どんな娘のこと考えてたの?」
「蒼月っていうお前と同じ年くらいの少女だ。えーと……」
この場合、なんて説明したら良いんだ。性格は話せるとしても、容姿と出会い方がなあ。電磁胞携えた少女って時点でアウトだ。
とりあえず。
紙パックにストローを差し込み、イチゴオレを一口飲んでみる。何か思いつくかもしれない──
あ、もしかして。
奏の認識上、俺は今『未来人』扱いになっている──から、例え『宇宙人』や『超能力者』みたいな事を口走っても不自然ではないはず。
「別世界出身のお姫様らしい。白銀のドレスだったから見かけたら間違いなく分かるんだが……」
お姫様かどうかは分からないが、こことは一応別世界ではある。おとぎ話から出てきたお姫様感を更に盛ってしまった気がするが、電磁胞について割愛したから仕方がない。実際に話さなければお姫様に見えるしな。
「にしても、他の女の話をしてるのに怒らないのか?」
ふとした疑問から溢れた呟きに「おおーっ! お姫様ーっ!」と目を輝かせていた奏の動きがぴたりと止まる。そして俺を一瞥して、イチゴオレを一口飲むと少し躊躇いを見せつつも言葉を紡ぎだす。
「あのね、私は嬉しいの。嫉妬しない訳じゃないよ? でも、それ以前に、陽くんが……未来でも人に興味を持ってくれているのが嬉しくて。私と出会うまで、『友達以上友達未満』な人しかいなかったでしょ?」
俺が過去を話さない理由を奏は唯一知っている。
それでもきっと、今話すべきと思ったのだろう。
俺は────心臓がドクンと、跳ねた気がした。
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