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あ、もう彼岸花が咲いている。
庭を眺めていたら朱い彼岸花がひっそりと咲いていた。その中に珍しく白い彼岸花も混じって。
赤と白。なんて綺麗なんだろう。
あまりの美しさに恍惚としていたら、見覚えのある白いうさぎが赤い目でこちらをぢっと見ていた。
紅玉のように真っ赤な瞳。
まさか、あの子が帰ってくるだなんて。
『いちご』
思わず、いちごに触れようとしたが、いちごに触れられなかった。
触れようとしたらスッと空振りし、宙を撫でてしまう。
『ごめんね、あたしもほんとうは撫でられたいのに、あたし、もう生きてないから触れないの』
いちごは、さびしそうにそう云った。
あゝ、やっと逢えたのに、触れることすらできないなんて、あんまりだ。
すると、いちごは『そういわないで。あたし、貴方に逢えただけで仕合せよ』
いちごの声は優しくて柔らかかった。
私は、思いきり泣いた。
『あのね、今は彼岸花が咲いてるからまた逢えたみたいなの。』
続けて『だから彼岸花が枯れたら、あたしはまた消えちゃうから。ねえ、笑って?せっかくまた巡り会えたのだから』
涙を流しながら無理矢理にでも笑ってみせた。
それから、いちごとのんびり過ごしている。
苺大福を食べながらいちごと話したり、いちごが生前好きだったボールのおもちゃで遊んだり、ささやかだけど大切だった日常をまた過ごした。
『ねえ、いちご』
いちごは、おもちゃに夢中だったが、『なあに?』と振り返る。
『大好きだよ』
そう告げたら、いちごは透明になって消えた。
枯れた彼岸花に一粒の水滴が滴っていた。
今日は雨なんか降っていないのに。
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