12人が本棚に入れています
本棚に追加
「川内さんだね。いやあ、よく来てくれた。連絡をもらった時はまた冷やかしじゃないかと思っていたんだよ」
沼井さんは額の汗をぬぐいながら言った。
見た目は作業服姿のちょっとこわい親方といった感じ。
だから圧迫面接も覚悟したけど、気の良さそうな人だと分かってホッとした。
「近頃はこういう仕事はいやだ、って人離れが深刻でね。きみみたいな子が来てくれりゃ大助かりだ」
「は、はい。ありがとうございます!」
「そうかしこまらんでいい。楽にしてくれ」
沼井さんはお茶を淹れてくれた。
ええっと、こういう時は勧められるまで飲んじゃいけないんだっけ。
たしか面接マニュアルにそう書いてた気がする。
「こういう仕事には前から興味があったのかい?」
「はい。私、人と接するのが好きなんです。以前は飲食業界に勤めていました。なんていうか……人の笑顔を見るのが好きなんです」
よし、これもマニュアルどおり。
経験を織り交ぜて前向きさをアピールする。
これは良い印象を持ってもらえたハズ。
――と思ったけど、沼井さんは首をかしげた。
「う~ん、笑顔が見たいというならこの仕事は正反対だからなあ」
しまった……!
業務内容との相性を考えるべきだった。
「あ、いえ、あの。人が怖がるところを見るのも好きで――!」
「ん? ああ、今ので不採用になんかしないよ。さっきも言ったけど人手不足なんだ。きみさえよければ明日からでも働いてほしいくらいだよ」
そう言って沼井さんは口を大きく開けて笑った。
「本当ですか!?」
「もちろんだとも」
そこから先は面接というより世間話だった。
話しているうちに緊張もほぐれ、ここで働きたいという気持ちが強くなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!