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「大丈夫だろうか……?」
呆然とした様子で部屋を出ていく川内を見送った沼井は心配になった。
これが理由で辞めてしまうのでは?
ただでさえ人気のない職種だ。
なんとか続けてほしい、というのが彼の願いだ。
(今はそっとしておこう)
自分が死んだことに気付かない人はたまにいる。
たいていは数カ月もしないうちに自覚するのだが、川内の場合はそうではなかったようだ。
「それにしても――」
沼井は書類をめくった。
「このことは伝えるべきか、それとも黙っておくべきか……」
そこには川内の死に関する、さらに詳しい情報が載っていた。
「まさか自分を驚かせて死なせたのが大矢さんだと知ったら……きっとショックだろうな」
沼井は一年前を思い出す。
今と同じく人手不足に悩んでいたときだった。
ぜひここで働かせてほしいと大矢がやってきた。
彼は生前、オバケ屋敷でキャストとして働いており、即戦力が期待された。
志望理由を訊かれた大矢は、償いがしたいのだと答えた。
仕事とはいえ客を驚かせて死なせてしまったことで気を病み、彼はまもなく自ら命を絶ったのだった。
オバケが相手ならいくら怖がらせても死ぬことはない。
今度こそ、お客さんを楽しませてあげたい――それが彼の願いだった。
「不思議なものだ。これも縁というやつかな」
沼井はふぅっと息を吐いた。
「やはり黙っていよう。川内さんがこれを知ったらショック死してしまうかもしれないからな」
終
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