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「ゆうちゃん、大好きだよ。大きくなったら絶対結婚しようね!」 「うん。りゅうくん、約束!」 小さい頃、向かいの家に住んでいた女の子と交わした約束。俺にとってそれは、絶対に叶えたい物だった。けれどその約束は、もう果たされることは無いと確信している。 大好きだったゆうちゃんは、大きくなるにつれてどんどん俺に冷たくなっていったから―― ゆうちゃんと俺が中学に上がった頃には、登下校も殆ど一緒にしてくれなくなった。毎朝必ず伝えていた”大好き”の言葉にも返事が返ってこなくなって、困った様な顔をされていた。手紙を書いても返事は無かった。明らかに避けるような態度が増えたのもこの時期だ。 それでも、俺はゆうちゃんが好きだった。また昔のようにゆうちゃんと一緒にいられると思っていた。嫌いだと言われたわけでは無いし、俺達は約束をしていたからゆうちゃんの気持ちも変わっていないはずだと信じていた。 だけど、ゆうちゃんの心はすっかり変わってしまっていた。 中学3年の時、ゆうちゃんが受験の為に塾に通い始めたと聞いて俺も同じ所に通おうとした事があった。一緒に通えば遅くなっても送ってあげる事が出来る。でもそれを聞いたゆうちゃんは、あからさまに嫌そうな顔をした。 「もういい加減にしてよ。小さい時の約束なんていつまで本気にしてるの?毎日毎日大好き大好きって……重いしウザい。私他に好きな人いるし、その人に誤解されたくないからこれ以上付きまとわないで」 冷たくそう言い放たれて、10年近くゆうちゃん一筋だった俺はあまりのショックに呆然とした。しばらくしてフラれたんだと理解は出来たけど、納得は出来なかった。 ……重いって何だ?好きだから毎日会いたいし、大好きだって伝えたい。何からも守ってあげたいし、一番に優先したい。俺だけを見て欲しい。そう思うのは当たり前じゃないの?何が悪いの? そう考えていたら段々とゆうちゃんに対して腹が立った。 ――あれから6年。 裏切られた気持ちだった俺は、地元から遠く離れた大学に入学した。 環境を変えてみたものの、友達は出来ても好きだと思える女の子には出会えない。友人達からは、モテるんだから適当に選べばいいのにと言われる事も多いけど、好きでもない女の子に興味なんて持てるわけがない。告白されても心が動く事も無かったし、一緒に居たいとも思えなかった。 「――77周年記念の合同学祭だってさ」 「合同学祭?」 もしかしたらゆうちゃん以外には好きになれる女の子は居ないのかもしれない……そんな絶望にも似た思いを感じ始めていた時、大学に入って最初につるむようになった拓海が一枚のポスターを持ってきた。 そこには、77周年記念として系列大学と合同で学園祭を開催すると書いてある。系列の大学は電車で5駅程の距離にあるここよりも規模の大きい学校で、合同学祭はあっちがメイン会場になるらしい。 「学祭運営に参加してくれる学生募集中らしい」 「運営って何すんのー?」 4人の中で一番お調子者の悠斗が興味津々でポスターを見ている。 「企画や出店の準備と運営って書いてある」 「へえ、面白そう」 一番俺と考えが近いと思っている晶が乗り気な事に内心驚いた。晶がそっち側に付いてしまうと、俺の味方はほぼゼロだ。それでも、一応抵抗だけはしておきたい。 「そうか?面倒そうだけど」 俺のあからさまに嫌そうな顔を見て、3人が一斉に溜め息を吐く。 「折角の出会いの場だぞ?参加しない手はないじゃん!」 「そうそう。もしかしたら運命の出会いが待ってるかもしれないし」 「学祭の運営に出会い求めるなよ」 「あのな隆司。お前と違って俺達は、少しでも出会いのチャンスを活かしたいんだ」 「そうだぞ。お前は女の子の方から寄ってくるからいいけどさ、俺達は違うんだからなー」 「ここは俺達の為だと思って、一緒に参加しようぜ!お前が居れば絶対女の子が寄ってくるし」 俺は餌か何かか?好きでもない女に寄って来られても迷惑でしかないんだけど。それに、俺に寄って来たからって何になるんだ。 ……でも、学生生活も残り2年を切ってるし、こいつらと何か出来る機会ももうあんまり無いかも知れないのか。 「……分かったよ。一緒に参加する」 「よし来たー!」 「そうこなくちゃな」 「早速参加希望出してくる!」 すぐに教室を出ていく拓海を見送りながら、そのあまりのスピードに俺は1人で苦笑していた。
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