3. 望遠鏡の君

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  *** 今日は冷える。 寒空の下で白い息を吐きながら、分厚いコートに身を包んで、学校の屋上にひっそりと潜りこんだ。 少し奥まった場所で望遠鏡のそばで吐く息が一つ。 白い息と赤くなった鼻を赤いマフラーで隠して。 君と目が合う。 「今日も良い日だね。」 嬉しそうな声。 星を見つけてここまで喜べるのは君だけだよ。 天井ない、空一面に広がる真っ黒なキャンバスに散りばめられた小さな星に君は目を輝かせながら楽しそうにはしゃいでる。 そっと目をやると、君の腕の中にはいつか僕が渡した本。 贈ったその日から、何度も何度も読み込んでくれている様子のその姿に嬉しくなって笑みがこぼれる。 あわてて、君にばれないようにマフラーに隠した時だった。 君が空から目を離さずにポツリ落としたのは。 「西、私星を見に行ってくるよ」 「え?」 今も見ているのに。 そんな言葉が出てしまいそうになるとすぐに君はつづけた。 「この向こう側を見てみたい。」
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