3. 望遠鏡の君

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  そう言った彼女が指さしたのは、いつか贈ったプレゼントの中の一ページ。 困惑する僕が見つめる写真に、君は目を輝かせて見つめる。 ーー外国じゃないか。 ここよりずっと遠い、遠い先の空。 ”世界の空”と表された本の中には、ここよりずっとずっと向うの様々な星が載せられている。どれもこれも中々見に行けないような場所ばかりで。 彼女がつぶやいた白い言葉に、すぐに短い旅にならないことを悟った。 「星は凄い。ひきつけられて離れられなくなる。何があるのか気になって気になって気になった先に何があるのか知りたい。」 彼女が知りたがった先に、僕は絶対にいない。 この二年、何度も何度もどんな時も星を一緒に見つめてきた。 君はあの日、たまたま目に入った僕に話しかけて、たまたま僕が引っかかっただけだけれど。 いつしかそれは大切な何かに変わっていて。僕にとってかけがえのない何かに変わっていたはずなのに。 こうも簡単に崩れ落ちてしまうのかと唖然とした。 と同時に情けなくも目頭が熱くなる。 「ど、どれくらい、行くの」 「わからない、満足するまでかな」 「そんなに遠いと携帯電話もつながらないんじゃないかな。きっと危ないよ、女の子一人で行くことないじゃないか。」 「持って行かない。ちゃんと見てくるまで帰らないために」 情けない言葉を吐く僕に君の意思が突き刺さる。
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