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「そこから踏み出したら痛いよ、きっと」
学校にもいい加減慣れて、初々しさなんか消えた高校二年生の夏。
燦々と降り注ぐ太陽の日差しの中で、私は揺れるスカートの向こうに見える地面を険しい顔で見下ろす。
安全のために設置されたフェンスを乗り越えた先で、二本の腕でギリギリ生きている私の背中に、偶然に通りかかったらしい男は焦るでもなく穏やかな声でそう告げた。
「・・・え」
「ふわっとするのは一瞬だけで、きっとすごく痛い思いをすると思う。僕もジェットコースターは好きだけれど、あの浮遊感を味わいたいのなら何もこんな所から飛び降りなくてもいいんじゃないかな」
悪気もなく、本気でそう思っているのか彼の顔は大まじめそうで。
まっすぐとこちらを見つめるその二つの眼に、今現在進行形で自殺しようとしている私は頭の中がパンクしそうなほど意味不明で理解不能なことだらけだ。
普通、目の前で飛び降り自殺でもしようとしている人を見つけたのなら、止めようとするものじゃないのか?いや、男は止めているが、止め方がおかしい。
たとえば、「きっとこれからもっといいことがおきるよ」とか「人生まだまだこれからだよ」とか、「まだ若いのにもったいない」とか。もっとこう、必死感のある説得でもするはずだろう。
ジェットコースターに乗りたいけれど、近くにないからとりあえず飛び降りて欲求を満たそうとしている馬鹿な女に見えるのか、私は。
「ほっといて」
「ジェットコースター好きな仲間としては見逃せないよ。怪我でもしたら、それこそ本当に乗れなくなってしまうよ」
「いいからほっといて!」
「絶対痛いからやめときなって」
「なんなのよ・・・」
なんなんだ、この状況は・・・
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