4. 公園の笑顔

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サーッ、ササッ 鉛筆がスケッチブックの紙に擦れる音が好きだ。 心地がよく、胸の奥の蟠りがすーっと消えてなくなるような、そんな感覚を得られる。事実、これはきっと世間でいう効果的なストレス解消なのであろう、それほど俺はこの音が好きだった。 昔から。 運動が特別できるわけでもなく、勉強も得意じゃない、イケメンでも、歌がうまいわけでもない。だからモテた人生なんてまだ送ってないし、ひそかにモテ期は三回やってくるなんてジンクスを信じるばかりで何を行動するわけでもない、そんな消極的な男子高校生。 それでも、何にも代え難い好きなことが俺にはあった。 絵を描くこと。 風景画でも人物でもキャラクターでも、何でも描けることは描けるが、一番好きなのは風景画。 「・・・・」 きっかけは些細なことだった。 比較的教育ママでもなんでもない、父さんと離婚してから女でひとつで俺を育ててくれた母さんが、小学生の頃書いた夏休みの宿題を見て、異様に褒めてくれたことだった気がする。そのあとで調子に乗った俺は何度か賞に応募して、入賞だって果たした。 夢はもちろんずっと絵の関係の仕事。 ガキの頃はそりゃ不透明な夢ばっかり見てたもんだから、最近まで漫画家やイラストレーターなど夢見がちなものばかりで。それでも今でも変わらずに画家になりたいなんて思うもんだから、ガキの頃から馬鹿な部分だけは成長して無いんだと思う。 部活は、辞めた。 理由は好きなものを描けなかったから。 高校の入試を気に、自分自身で絵画など美術関係に強い高校を探して、入賞歴や美術大への進学率の高さを売りにした部活がある今の高校を選んだけれど。実態は、文科系の部活とは思えないほど暑苦しくて、自分の好きなものを描くには部活を辞めるという選択以外思いつかないほど窮屈な場所だった。 そんなことじゃ、夢には到底たどり着けないことを俺は知ってる。 不可能な夢はもつだけ無駄だということなのだろう。 そろそろ、潮時も近づいてきた。  
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