4. 公園の笑顔

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バキッ! そんな考え事をしながら描いていたせいか、手元を見下ろすと、突然聞こえた音にとてもよく似合うように、鉛筆の先が豪快に折れては転がっている。 少し溜息をついて、そんなときのために用意している鉛筆の代えを探そうと筆箱を漁るが、どう探したってそれらは見つかりそうにない。今日に限って家にでも忘れたのか、こんな風に運ばかり悪いのも昔からの俺の特徴だ。 今日は比較的上手くかけていただけに、ここで終えてしまうのが勿体ない気がするが。シャープペンで書いてしまうのは、どうにも俺のポリシーに反する。 下手糞なただの男子高校生がポリシーなどと気にしてるのも可笑しな話だが。 仕方がない、今日はあきらめて帰ろう。 そう思い、スケッチブックと折れた鉛筆、消しゴムを仕舞い込んで撤収しようとした時だった。 「良かったらこれ、使います?」 「・・・・え?」 驚いた、心底。心臓が飛び出そうだった、現に飛び出てる。 見上げた先で優しく微笑んでは鉛筆を片手に俺に差し出しているのは、確かに先ほどまで俺がずっと凝視して書き続けていた、木陰の下の彼女だった。 長い髪の毛を片方耳にかけながら、何とも優しげな先ほどとは丸っきり違う表情でほほ笑んでる。 思考回路は停止したままだ。 「折れたんでしょう?鉛筆」 「・・・はい、でも」 「私にはもう必要ないものなので、使ってください」 そんな風に言われたら受け取るほか道はない。 困ったように微笑む彼女の手元から、そっと鉛筆を受け取ったところで俺の思考は、また別の問題に気がついて騒ぎ出した。 見たところ、鉛筆を差し出した彼女はおれの隣に座り込んではここから動く気はないらしい、というよりしまいこんだスケッチブックの中身が気になっているようで、何を俺が書き出すのか不思議そうに待っている。 期待に満ちた目に、あれは見せられないだろう。 親切心で差し出した鉛筆を受け取った相手が、スケッチブックの中に自分のことばかり書いていたらどうだろうか、漫画の主人公でも何でもない俺にとってそれは自殺行為と同じだ。 彼女に気味悪がられるのが怖い、というよりは、これから先彼女を描けなくなってしまうのではないかという方が怖かった。 ここは、鉛筆を返して今日のところはやめておこうか?それでも顔を見られてるし、きっと彼女の中での印象付けはできてしまってるから、次に会った時に声をかけられない保障はない。 なんてことだ。
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