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「どうしましたか・・・?」
「いや、なんというか。今日はやめておこうかなって思いまして」
「気分じゃない日も、ありますよね。すみません、厚かましく・・・」
「いえいえ!すみません、こちらこそ」
「・・・でも、出来ればもらってほしいんです。好きなんですよね、貴方の絵」
「・・・え?」
心臓の鼓動が高鳴る中、くだらないダジャレのような返答を返してしまったことよりも、少し恥ずかしげにうつむく彼女の横顔が間近で見た方が何倍もきれいで。
見とれるうちに、彼女は吐き出した。
俺の恐れていることを。
「私のこと、描いてますよね。いつも」
「・・・!」
「あの木陰からいつも見えていたんですよ。最初は驚いたけれど、貴方がすごく真剣な顔をして描いてるものだから動くにも動けなくって。知らない人だから、中身がとても気になっていたんですけど、突然見せて!なんてお願い出来ないでしょう?だから、今日はチャンスだと思ったんです。」
ごめんね、本当。なんてほほ笑む彼女はまるで気にして無さ気だが、俺はあんなに注意をかけてバレないようにやってきたスケッチをこんなに簡単にバレていたことに驚きを隠せない。
あんなに、必死に隠してたんだけれど。
「どうして、わかったんですか?」
「・・・実は、私も絵を描くのが好きなんです。それこそ絵描きを目指して、貴方みたいにこの公園に通いつめて毎日のように描いてました。だからかな、わかるんですよ。好きなことをしてるとき、無意識にどんなに気をつけていても途中から夢中になって気を緩ませてしまうって」
「そう、ですか。すみません、気持ち悪かったですよね。」
「え!?そんな、全然です!描く側にしかなったことがなかったから、とても新鮮でした。楽しかったんです、私ずっと。・・・でも、それ以上に羨ましかったのかも」
「え?」
「夢を追い続けてる、貴方のことが」
そんな風につぶやいた彼女の表情は、木陰の下でみせてるような、あの顔で。
珈琲をやさしく両手で包んでは、公園の噴水の水を目を細めて見上げた後。彼女は薄い唇を動かして、それらを続けた。
本当に、心の底からうらやましそうに。
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