4. 公園の笑顔

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「私は・・・諦めちゃったから」 「絵描きになる夢、ですか?」 「はい。なんていうか才能もなかったし、見込みもなかったから仕方がなかったんだけれど。それでも随分長い間夢見てたものを否定するのは心苦しかったかな。まるで自分を否定してるみたいで、されてる気にもなった。それでも何だか懐かしさを捨てられなくって、今でもこうして公園には来てたんです。絵を描くほどの気力は持ち合わせていなかったから、スケッチブックの代わりに珈琲を持って」 「今は・・・」 「会社員です。現実的でしょう?」 そう言って、彼女は悲しげに笑った後。 俺の手にもう一度鉛筆を押し付けては、またほほ笑んだ。 「諦めてほしくないなって思うんです。自分の夢を人に押し付けるのは厚かましいことだってわかってるんだけれど。なんだかどうしてか、貴方があの頃の迷ってた私に見えてしまって。好きなことを続けるのはとても難しい、でも、それでも諦めたらきっと後悔するから」 その言葉は痛いほど伝わった。 絵描きになりたい。そんな夢はどうしてか理解されにくい。 俺の母親は幸運なことにそういうのには寛大で、好きなようにやりなさいといってくれる人だが、教師たちは違う。どうしてか学力の高い学校への進学を目指してほしいのか、絵を描いてることを告げ、そういった大学に進みたいと説明するときまって歴代の教師たちは困った顔をしてみせた。 もっと現実を見ろだとか、夢ばかりでは生きてけないとか、勝手なことばかり。 そりゃ、俺が賞をとりまくる天才少年なら話は別だったんだろうけれど。それでも何度も言われるそのセリフに、俺自身もうんざりして、高校に上がった今でもその話はあまりしようとは思えない。 夢を持って、その夢に向かって努力しろと最初に教えたのは教師なのに。今ではそれを一番に否定するのも教師だ。物好きな奴らだとは思うけれど、きっと客観的に見てもその意見はまちがってはいない。 わかってるからこそ、むず痒いのだ。
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