3人が本棚に入れています
本棚に追加
***
きっかけは、ほんの些細なことの積み重ねだった。
けして、悩んでいたとか、進路に困ったとか、そんなことじゃない。ぜんぜん違う。
本に書いてあった。
―「人は、皆が小さな箱の中で暮らしてる」―と
人は皆が小さな箱の中で生まれ、成長し、競い、傷つけあって、最後に死ぬらしい。
生まれて死ぬまで、それも死んでからも箱の中でしか生きていくことができず。結局のところ、神様から見た人間はただの道具。モルモットでしか存在しえないもの。それでも、こんな小さな箱の中で窮屈に生きていることを知らずに生きていることを知らないモルモットは多い。
箱の中では皆が最初は平等だった。
金持ちと貧乏人の差はなく、美人と不細工もない、白人と黒人も、女と男さえ。
違いはいらなかったはずなのに、いつしか皆が違いを求めた。最初は容姿、次に中身、最後に身分。醜い争いをこんな小さな箱の中で繰り返す人間たちのなんと惨めで滑稽なことか。何を目標にして何をなしえたって、しんでしまえば意味がない。
それでも世間は言う、「きっと良い人間になりなさい」と。
君たちは未来ある若者だから、これからのこの国を変えていかなければいけないなんて大きな大きなことを目標にさせようと言う。この学校の中でさえ、何人が政治家になるかもわからないという程度のことなのに。
それなのに、教師は偽善をふりまき、政治家は汚職にまみれ、大人は平気で裏切る。
いつしか、私はそんな箱のことを「窮屈だ」と感じてしまうようになった。
他人から見れば理解しえない思考だろう。
中二病じみた考えがたどり着いた結末は、「この世界から飛び出る」というものだった。
思いついてから決断するまで、そう時間はかからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!