5. 樹の海の底で

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それから何日もお婆さんはボクに会いに来てくれまシタ。眠れない夜は子守唄を歌い寝かしつけてくれ、本を読むために文字を教えてくれたのデス。 お婆さんの事は好きなボクだけど、まだまだ臆病でシタ。 「あなたは悪くないよ、なぁんにも悪くないんだ」 「…でも、みんなはボクの事を怖がるんダ。この顔のせい?容姿がいけないのかなァ」 「いいえ、あなたはとても優しい顔をしているのよ。大丈夫、大丈夫」 「でも…」 「ならば、明日に麓の村に降りて来なさい。あたしがちゃんと、怖くないこと知らせておきますから」 そう言って、手当をしてくれたお婆さんは微笑んで帰っていきました。 でもボクは村へは行きませんでシタ。行ってしまって、もし怖がれたらと臆病になり、お婆さんがボクのせいで嫌われてしまうのが怖かったのデス。 泣きながら、葉っぱに書いた手紙を寝床に置いておきました。 それでも、それでも、もう会えなくなるのが寂しかったから一つだけお願いを添えて。 “ありがとう、さようなら。" “一つだけお願いがあります、1年に1度、この森が霧に深く包まれる日に、ボクに子守唄を歌って欲しいデス。それだけで、良いのデス。" お婆さんに教えてもらった拙い文字で、そう綴りまシタ。 ボクは今日も樹の海の底で、その唄を聴きながら泣きマス。そして、眠るのデス。 けして、自分が好きなものに好いてもらえるとは限らないことを知りながら。 ----------------------------- その年の霧の深い夜から、森の奥で何処からか子守唄と、地鳴りのような低さでとても小さな泣き声が何処からか聞こえるようになった村人達は騒ぎました。 そして、子供、孫にこう言い伝えます。 「樹の海の底には近づくな、バケモノに食われるぞ」と。
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