7. 喜劇に踊れ

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「この世はまさしく喜劇に等しい!」 何処かで聞いたような名言みたいなものを、壇上で王様は大きな声でそう言った。 頭には王冠を被り、マントを翻し、僕ら庶民には手が出せないほど偉大なお姿で、とても良い声をしている。 周りの熱心な若者達とは違い、僕は少しだけ周りにズレているようで、王様の話を聞けど話す度にピクリと動く長い口髭に目を奪われていた。 王様は真剣そのものだった。 「お前らが必死こいて生きている人生も生まれた時に授けられたレールの敷かれたシナリオに過ぎない。此処に俺が偉そうな態度で立っているのも、お前達が寒そうな格好をしているのも最初から決まったもの。お前達は役を全うしながら舞台上を幾にもなく駆け回る演者でしかない。」 王様は独特な感性をお持ちだった。 若者達には少し難しい言い回しやお言葉も、数人混じった老人達には分かるようで、何人もの人々が王様の演説を真剣に聞き入り、そして小刻みに首を縦に振る。 僕はよくわからなかった。 人は15くらいに、生まれた事の意味を考えるというけれど、人生自体が最初から決まっていたものでそれを何も知らずに歩いているだけだなんて、少し不公平な気もする。 その理論が正しいとするならば、王様や富裕層の人々は最初から贅沢出来るように決まっていて、僕ら貧乏人は何をしたって貧乏なまま。今一生懸命努力をして商いをしてたって、現状変わらないのでは。 そんな事を口には出さずに考え込んでいると、すぐに王様は続けた。 「人生というのは喜劇で舞台であると言ったが、諦めてはならない。今ここで諦めてもそれはシナリオ通りではあるが、俺の言葉を聞いて我武者羅に努力をするのも、それまたシナリオ通り。自分の道は切り開くものと何処かで誰かが申していたが、切り開く事こそがもはや最初から決まっているのだ。」 王様は僕の疑問が聞こえているようだった。
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