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ガタンゴトン、ガタンゴトン。
揺れる景色に目を奪われて、少しだけ眠たい目を擦りながら、見たこともない世界の中を走り続けた。
此処は何処か知らない。
私の住む場所より、ずっとずっと奥に遠くに存在していて、揺れる車内にはいつものような疲れた顔した人間達も、嫌な顔して眠る人間達も誰もいない。
×号車にただ独り。
私は揺れるのだ。
「空は」
空は、オレンジ。
時間帯は夕暮れ、いつもなら帰宅ラッシュの電車内でたくさんの人たちに押し潰されそうになりながら、苦しく息をする頃。
私はそこにはいなかった。
息のしやすいこの場所で、少しだけ上機嫌にでもどこか不安げに、少しだけ眉を下げる。
流れる雲は濁ってた。
「やあ、お嬢さん。今日はどちらからいらっしゃったんで?」
「家から」
「ガードがお硬いですね。いやはや、どうにも家出とは思えぬ荷物の量では無いですか。お出掛けですか?」
「ええ、少しだけ。離れてみたくなって」
「わかりますわかります、あるあるですね、ええ」
胡散臭い言葉を発するその人は、こんな田舎な景色には失礼ながら少し不釣り合いなビシッと決めたスーツにハットまで被ってる。
肩までのセミロングのクルクルの髪は男の人にはこれまて珍しい。
先程からこんな調子で話しては少しの沈黙を楽しんで、私達は無言と会話を繰り返しながら共に電車と同じように髪を揺らすのだ。
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