8. 拝啓、電車の隣人さん

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「面白いですね」 笑えるのも、紙をクシャクシャにするのも。 そっとその人が顔をハンカチで拭いてるのを見て苦笑いを零しながら、ポケットに入った携帯電話を見てみると。 心配した親からの連絡が何件か入っていた。 旅は終わり、逃避はしない。 現実からは抜け出せないけれど、私は現実と共存しなくてはならないのだから。 人に嫌われても、人を嫌っても。 「帰ります」 「そうですか」 「引越し、お願いすることにしました、親に。きっと分かってくれると思います、あの人私に甘い所あるんで」 「凄い自信だね、所謂くそがきだ。」 「殴りますよ、鼻血出させますよ」 「ひいい」 「……まあとにかく、引越し先の学校では人に好かれる自分じゃなくて本来の自分を好きになってあげようって、そう思います。貴方の言葉じゃなく…本を読んだからであって…」 「はい、分かってますよ」 「だから、お礼は言いませんから」 「くそがきですね」 思い切り、肩に一撃御見舞した。 痛がるその人のハットをそっと押し付けて、目元が隠れるくらいに被せたあと少しだけそれが面白くて笑う。 その人も笑った、困ったように。
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