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ーー空はいつの間にか紫に。
揺れる雲は、星を見え隠れさせて流れていく。
変わらないのはこの場所の静けさと、私たちの微妙な空気だけ。
変わったのは、沢山あるけれど。
変わらないものの方がきっと多いはず。
「甘いって言わないんですね。いじめられた訳でもないのに、逃げるのかって」
「言いませんよ、言える立場でもないですし。傷つく前に避けることも立派な戦略ですから」
「……はい」
プシューと、扉が開く。
駅についたのだ、何周も回っていつの間にか家の最寄りの駅に。
見慣れた濁った空を背に、その人は笑う。
今度は晴れた顔で。
「またいつか」
「また、いつか」
「お互い頑張りましょうね」
「はい、どうにかやってみます」
そして、頭を下げた。
名も知らない、不思議な格好のその人は最初から最後まで変わらないその胡散臭くても優しい顔でこちらに微笑みかける。
閉じる扉に、流れる空気が途絶えた。
ぷつりと消えた思考と意識の狭間で、先程まで確かに乗っていた電車に誰1人も座っていないことに気づく。
ふわりと体を落としながら、私は確かに理解したんだ。
「あれは、私自身なんだ」と。
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