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風がつよく吹いた。
屋上だからこれくらいのこともあるだろう、強く吹き付けた風が私の頬を殴り向きなおそうとした体に打ち付ける。その瞬間に私はバランスを崩し、先ほどまでしっかりと握っていた柵から手を緩めてしまった。
体がスローモーションのようにゆっくりと斜めに落ちる。
なぜかその時の私の脳みそは、「怖い」とおびえていた。
「よっと・・・!」
落ちていくだけだったはずの体を何かが強い力で引き上げる。重力に逆らえずにいた重い何がが瞬間すごく軽くなった。
つかまれた腕を必死に掴み、なぜか震えた手でその体に抱きつく。
――なぜだ、死ねたはずだったのに。
生きることをやめたはずの私は何故か怯えていたのだ。目に見えない死という恐怖に震え、怯え、死にたくないとさえ思ってしまった。
そして、
「セーフだね」
先ほどまであれだけのことを言われたはずなのに、私の無事な様子を確認すると心底安心したような表情で無邪気に笑う男に、私も安心してしまっていた。
私は、死ぬのが怖くなった。
あの決断はそれほどまでに弱いものだったのかと、落胆してしまうがこの事実は変えられない。私は死ぬのが怖く、しねなくなってしまった。
震える足はどうにも前に進めそうにない。
所詮、馬鹿だったということなのだろうか。どこの誰が書いたかもわからないような本に惑わされて簡単な決意を大きなものだと勘違いして、自分の落そうとしたバツなのか。
私の恐怖感はいつまでたっても薄れなかった。
(とりあえず、お礼いわなきゃ。あと謝罪も・・・)
恐る恐る見上げた顔の先でほほ笑むその人に震える口先でそう告げようとしたとき。
彼は変わらない笑顔でこう言った。
「箱の中で生き続けたほうが幸せだ」
――箱の外は、暗すぎる。
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