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「僕の話は良いんだ……君は?君は今どう?」
「どうって?」
「その、不自由してないか、とか」
「ふふっ、不自由してるか、だなんて。私はもう死んでいるのよ?不自由も何も、いつもフワフワしてるわ」
「そ、うか。そうだよね…ごめん」
「え!いや、良いの!その、そういう事じゃなくって、私は大丈夫って言いたくって、君の元気なところを見れただけで私は」
少し顔を俯かせて、彼女は切なそうに笑った。
この顔をする時はどこか我慢してるものがあって、それでも彼女は優しいからそれをしまい込んでは無理に笑ってる時。
そっと伸ばした手が、彼女に触れたいと先を急いだ。
その竦んだ肩を、流れる髪を、俯いた顔を。
けれど、急いだけれど。上手くは行かない。
ゴン!と鈍い音を立ててガラスにぶつかった手を見て、先ほど確認した向こう側へは行けないことをやっと再確認する。
無理、なんだった。
「あの時、ごめん」
「…ん?」
「僕が遠出をしたいだなんて言い出さなければ、あんな事にはならなかった。君はきっと夢を叶えただろうし、僕よりずっと優れた人間だったのに。……君の親にも君の友達にも、君自身にも謝ったって謝り切れないのもわかってる。僕は取り返しのつかないことをしたんだ」
「………」
「君のご両親に君を返してくれと言われたよ。あの時、お前さえ、お前がそうなっていればって。僕は何も言えなかった…君を亡くして君を探したけれど、もう何処にもいなくて。代わりに死んでやることも、後を追うことも出来なかった。」
彼女を見送る最後の日に、僕の心は抉られた。
彼女の親に、彼女の友達に、彼女の眠る顔に。
無数のナイフが無造作に体中に差し込まれ、僕は血だらけになったけれど、ナイフを取り出して謝ることも、ナイフを隠して笑うことも出来ずに、一人倒れ込んだんだ。
飛んだ情けない恋人だと自分でも思う。
僕は彼女を背負い切れなかった。
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