2. 駄菓子屋のチューペット

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「こんにちは」 小学生の僕には日課がある。 「ばーちゃん、今日はこれ買うよ」 教科書がたくさん入れられて、伸び盛りの背に悪影響なんじゃないかと心配になるほどの重さを誇る黒いランドセルを背に、お小遣い制度なんてまだまだこれからだから、なけなしの小銭を必死にかき集めた、がま口の財布を片手に。 「チューペットってなんでこんなに美味しいんだろうね、困るよ」 昔から、きっと僕が生まれるずっと前から、家までの帰り道、三回角を曲がって信号を渡った道の先にある、年期の入った駄菓子屋さん。 僕は、変わりのない毎日の中、今日も暑い日差しに目を細めながら、駄菓子屋の表に出してある錆びたベンチの上にランドセルを背負ったまま腰をかけて、少し解けてベタベタになりつつあるチューペットを吸っている。 暑い暑いなんて、そんなのしかたない季節でも何だか駄弁りたくなったんだからしょうがない。そっとチューペットの先を汚いものを持つような指先でつまんだまま、僕はその先に口をつけてまた駄弁る。 「地球、また温暖化が進んでるんだってさぁ。先生が言ってたんだけどさ、これじゃあアイスも溶けちゃうよね。明日体育なんだけどさぁ、もう僕いやになっちゃうよ。」 友達がいないわけじゃない。 最近はやりのゲームだって家にあるし、それを一緒にやる友達もちゃんといる。家に帰れば母さんが夕飯を作って待ってるだろうし、家の事情だって割と普通。 家出少年なんかじゃないよ、本当だよ。
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