2. 駄菓子屋のチューペット

3/6
前へ
/128ページ
次へ
僕がこの駄菓子屋を見つけたのは、確かテストで悪い点を取った日の帰り。母さんにどんなに怒られるだろうと、肩を落としてトボトボ帰ったんだ。何となく、少し古いなと思って目に入った駄菓子屋でお菓子を買いたくなっただけ。 財布に入った189円が、少し贅沢をするための資金に思えた。 その日、贅沢をして買ったアイスクリームはとても美味しかった。 「僕、もう一本買うよ」 その日から、僕は駄菓子屋に通うようになった。 毎日毎日、帰ってから指定されたお手伝いをこなして、お駄賃をもらっては駄菓子屋に使ってる。なんて昭和な小学生なんだろうとは思うけれど、僕にはあの時のあのアイスの味がどうにも忘れられなかったんだ。 まあ、結局せかせかと貯めたお小遣いを一気にアイスクリームに使うなんて出来なくって、今じゃ一本30円のチューペットで毎日我慢してる。 毎日・・・といえば、飽きるくらいに通いつめてわかったけれど、この駄菓子屋には僕以外にお客さんはあまりいないようだ。 道行く小学生は少し、こんな場所で座ってる僕を奇妙そうな眼で見るだけで、誰も駄菓子屋に寄るなんてことはないし。たまにどこでそんなの買うんだってくらいボロボロの服を着たオジサンが、僕の30円のチューペットより安いお菓子を買っていく程度。 あとは、ばーさんから餌をもらっては店の棚でいつも寝てる、三毛猫だけ。 こんなんで、稼げてるのかなって思う。 下世話な心配だろうけど、僕ならこんなに売れてないなら辞めちゃうかも。もっといい仕事あるだろうし、ばーさんも若くないんだし。 そんないらない心配をしながら、二本目のチューペットを食べ終えて、そっとレジのある黄ばんだテーブルの端で椅子に座ってるばーさんを振り返って挨拶する。 「じゃあ、ばーさん。明日も来るね」 二本のチューペットのゴミをゴミ箱に入れて、手を挙げて挨拶すると。 ばーさんは、今までの僕の駄弁りに返事をしなかったように、変わらず目がなくなるほどクシャリと笑ってほほ笑むだけ。 ここまでが、僕の日課。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加