白い孤独

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 それでも一人、電車に乗り、流れる窓の景色を見ていると、ちょっと気持ちが明るくなった。僕は今まで一人旅をしたことがない。何日も一人で、家から離れて生活したことがない。  都会での夏休み。    どんな時間が僕を待っているだろう?  新しい時間が始まる。新しい自分になる。今まで想像したこともない大切な何かが見つかるかもしれない。そんな気がした。  ばあちゃんの住む地方都市に着く。駅前のバス乗り場から『海岸通り行き』というバスに乗った。ばあちゃんの住むマンションは海に近い丘の上にある。『灯台入口』というバス亭で降りる。  母さんといっしょに何度も来ているので、ばあちゃんの家へ行く道は知っている。  それが。  バス停で降りた時、いっしょに下りた女の人が持っていた籠のような入れ物の中から急に、小さな真っ白い子猫が飛び出した。 「あっ・・・待って・・・」  子猫は、あっという間に近くの草むらに走り込み姿が見えなくなった。僕より少し背の低い女の人はオロオロして僕を見た。なぜなら、そのバス亭で降りたのは、その人と僕だけだったから。  僕は子猫が草むらの端っこから抜け出し海の方へ走って行くのを見逃さなかった。僕は持っていたスーツケースをその場に置いたまま、子猫を追いかけていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加