白い孤独

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 真昼の夏の浜辺。青い空の真ん中に灼熱の太陽が張りついている。砂浜はあちこちで小さな光のカケラをキラリ、キラリ、と(またた)かせている。  こんな明るい美しい光景の中で、猫の死骸が一つ転がっていて、か細い女の人は泣いている。  なぜ僕は、こんな不思議な時間に巻き込まれてしまったのだろう。  海はザザザザーーーーッと波の音をたてた。  子猫は鳴くのを止め僕の腕の中で、トロンと溶けてしまいそうに動かない。  僕は急に、子猫まで死んでしまうのではないかと心配になる。  その時、女の人が立ち上がり 「ごめんなさい。変なこと言って。子猫、ここに入れて。」 と、籐で編んだ籠のようなバッグの蓋を開けた。  僕は、そうっと、子猫をその中へ入れた。 「子猫のお母さんは生きてるけど・・・友だちが死んだの。」 女の人は、そう言った。  ああ・・・僕は残酷な勘違いをしてしまった。少し冷静に考えれば、そうした可能性を推理することだってできたはずなのに。その可能性を考慮したなら、あんな言葉は口にすべきじゃないと気づいたはずなのに。  ダメだ。僕はまだまだ子どもなんだ。    いや、子どもか大人かという問題じゃない。僕が浅はかなだけだ。  女の人を傷つけた。女の人は僕に『ごめんなさい』と言ったけれど、本当は僕を庇って、僕を傷つけまいとして選んだ言葉じゃないのか。  僕は女の人に謝りたかった。けれど言葉が出てこない。  子猫が籠の中で鳴いている。みぃ・・みぃ・・みぃ・・僕はたまらなくなって籠の蓋を開け、子猫を、また抱いてしまった。  子猫は、僕の腕の中に落ち着くと鳴くのを止めた。急に、どうしようもなく熱いものが込みあげて僕は泣きそうになった。 「あげましょうか?」  女の人は再び、僕にそう言った。 「いいえ。僕は今、猫を飼えないんです。」 「そう。じゃ、また、この子に会ってくれる?」 「えっ? 会いたいです。」  女の人は子猫といっしょに丸い目で僕を見上げて少し微笑んだ。 「この子、まだ名前ないの。あなた、明日まで考えてきて。ね。」 「明日?」 「ええ。何時なら会える?」 「朝早くか・・・夕方6時過ぎかな・・・」 「じゃ朝6時はどう?」 「いいですよ。ここで?」 「あなたの名前、教えてくれる?」 「レイキです。」 「レイキ?どんな字を書くの?」 「命令の令に基本の基です。」 「まあ。しっかりした名前ね。」 「名前だけです。しっかりしてません。」 「私の名前はミノリ。美しいに国語辞典の典。」 「あ・・どことなく僕の名前と似てませんか?」 「うふふ。そうかしら。」 「似てます。」
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