第二章『グッバイファーザー』

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 目的地に近づく度に、僕をこんなふうにした父親への恨みが、湯を注がれたわかめのように、むくむくと湧き上がってきた。「怒り」の感情が暴発し、狭い路地でもバイクのスピードが出る。  それを必死に抑えて、僕はある公園に侵入した。十時を過ぎているので、当然遊ぶ子供たちはいない。錆びつき、塗装の剥がれたブランコが風に揺られているだけだ。 「親父のアパートには、駐車場が無いんだ。駐輪場はあるけど、それも住人専用だからな」 「そうですか、そのほうが都合がいいです」  公園の駐輪場にバイクを停車させて、エンジンを切る。  吹き付ける風が治まった途端に、僕の身体はほのかに発熱を始めた。手の甲から指先にかけてはひりひりと痺れるような痛みが走る。 「さて、行くか」  ヘルメットは、バイクのハンドルに引っ掛けた。都会じゃあるまいし、盗む人間はいないことを信じたい。  ここから五百メートルほど歩いたところにある親父の家を目指して、僕と悪魔の少女は歩き始めた。 「これは、ちょっとした好奇心なのですが…、柏木さんは、どうして御父様を恨んでいるのですか?」  悪魔の少女が、白い息を吐きながら僕に聞いてきた。  僕は真っ黒な空を見て、少し考えた。頭の中で文章を組み立ててから、簡潔的に話す。 「くずだったからだよ」 「くず…?」 「ああ。あまりいい父親じゃない。典型的な、『ダメおやじ』なんだ」  父親だなんて名ばかり。会わなくなって三年になるが、最低であってことの記憶しかない。一緒に旅行に行ったり、学校の体育祭で応援されたり、卒業式では涙を流したり、世間一般の話に効く「父親像」のかけらもない男だった。  復讐する人間を誰にするか考えた時、真っ先に浮かんだのは、僕の父親だった。ほかにも恨んでいる奴はたくさんいて、殺したい奴は山ほどいるのに。    僕の父親が死んだところで…、悲しむ人間なんていないと思ったからだ。 「僕の家は、あまり裕福じゃなかったんだ」 「ああ、はい」  あいまいな返事。 「最初から貧乏ってわけじゃなかった。この町じゃ、五本の指に入る金持ちだった。だけど、僕の親父の道楽で全部消えてしまったんだ…」
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