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そして、腕には小さな赤子を抱えていた。
ああ、そう言うことか。
理解すると当時に、昔、あいつらにウイスキーを無理やり飲まされた時のような、焼けるような熱が胃の奥に蘇った。
僕は少しまごつきながら言った。
「あの…、ここは、、高坂明人さんの自宅で合っていますか?」
「はい、そうですけど…」
突如現れた男に、怪訝な顔を隠せない女性。
「僕は、高坂明人さんの中学時代の同級生だった、柏木と申します」
「あら!」
女性はすぐに表情を崩した。
「明人さんの同級生の方? やだ、明人さん、今買い物に出ているのよ」
「ああ、そうですか…」
僕は精いっぱいの作り笑いを浮かべた。
「それは残念です。地元に帰ってくる機会があったので、中学時代にお世話になった彼に挨拶をしておきたいと思ったのに…。では、また今度…」
そう言って頭を下げると、女性は「ちょっと待っててください!」と僕を引き留めた。
「すぐ近くのスーパーなので、もう間もなく帰ってくると思うので!」
怪訝そうな顔は一転して、愛想のいい、綺麗な顔になっていた。心なしか、声のトーンも少し上がる。女性が赤子を抱えなおし、「よかったら、中で待っていてください」と言おうとした、次の瞬間。
「あれ? お客さん?」
背後で、聞き覚えのある声がした。
僕は首が捩じ切れそうな勢いで振り返る。
大人になった高坂明人が、ナイロン袋片手に鉄柵を開けてこちらに歩いてきていた。
少し太っただろうか? だが、あの頃と同じように肩幅が広く、ジャージの上からでも屈強な体格だと分かる。相変わらず髪の両端を刈り上げ、前髪をかき上げてワックスで固めていた。
「よお、久しぶり」
僕は精いっぱいの笑みを浮かべて、高坂明人に手を振った。
高坂は、「え?」と言いたげに目を丸くした。僕の顔をじろじろと見る。そして、頭の中に眠った記憶を手繰り寄せるようにして、「柏木?」と絞りだした。
「お前…、柏木か?」
「うん。久しぶり」
もう少し、驚いて、顔をひきつらせるものだと思っていたが、あいつは古い親友と再会した時のようなうっとりとした笑みを浮かべて僕の方に歩み寄ってきた。
「久しぶりだなあ! 何年ぶりだ? 中学の時以来だから…、五年かな?」
「ああ、そうだな」
なれなれしく僕の肩を叩く。
これには僕の方が面を喰らっていた。
こいつ、どうしたんだ? こんな笑いあうような仲じゃなかっただろ…。
玄関で見ていた高坂の奥さんは、ほっとして手をポンと叩いた。
「あら、やっぱり同級生さんなのね? 知らない人が来たから、ちょっと怪しく思っちゃったのよ」
「大丈夫だ。アキ。こいつは中学時代の同級生だから! な?」
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