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にかっと笑って僕に同調を求めてくる高坂。僕はその勢いに呑まれて、「ああ、そうだな」と頷いてしまった。
高坂は、しまいに僕の肩に腕を回すと、ぐいぐいと引っ張って、僕を家の中に招き入れようとした。
「上がっていけよ! あれからどうした? 音沙汰無しだから、ずっと心配してたんだよ!」
「あ、ああ、まあ、それなりに…」
ちらっと、朱里の方を振り返る。
朱里もまた、「これはどういうことですか?」と言いたげな目を僕に向けていた。
高坂は奥さんに指図した。
「おい、茶と菓子を出してくれ!」
「ごめん、お茶はあるんだけど、クッキー切らしてたから、買ってくるわね!」
奥さんはぱたぱたと家の中に戻っていくと、赤子を置いて、上にコートを羽織った状態で出ていってしまった。
後のことは、激流に流されたかのように早かった。
僕は玄関で靴を脱いで、奥にある広いリビングに通された。木目の美しいテーブルに座らせ、、向かいに高坂が座った。朱里は彼の目には見えていないので、僕の背後に待機させた。その間、終始高坂はにこやかだった。「いやあ、久しぶりだなあ」とか「同級生はみんな進学だからなあ、寂しかったんだよ」とか、まるで壊れたレコードのようにつぶやいていた。ここでようやく、僕は高坂の真意について勘付き始めた。
「綺麗な家だな」
喉に針を押し込むように、回りくどく言った。
すると、今までにこにこしていた高坂の目が急に陰った。
「悪かったよ」
その言葉を聞くのは、今日で二回目だった。
高坂は肩の力を抜くと、椅子の背もたれにずっしりともたれかかった。そして、工場勤務で黒ずんだ手で、ポケットの中のスマホを掴み、あるメッセージ画面を僕に見せつけてきた。
「羽野雄心が死んだ」
「……」
すごいな。もう伝わっているのか…。
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