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「もしかして、柏木さんって、『よくできる人間』なんじゃないですか?」
「急にどうしたんだよ」
僕は冷蔵庫からサトウのごはんを取り出して、レンジの中に放り込んだ。
「当たり前だろ。こんなこと」
「いえ…、これは私の完全な偏見だったんですけど…。私が昨日来たときも、スープを出してくれたり…、何気にバイクの免許を持っていたり…、さっきも気を利かせてジャージを買ってきてくださったり…、こうやって料理もできますよね?」
これを料理。というのは意見の分かれるところだな。
「携帯の料金もご自分で払っていますよね? あと、ガス代に、電気代」
「なんだよ。金はバイトで稼いでいるぞ? 生活費に使ったら後は残らないけど」
馬鹿にされているような気分になり、むっとした。
「すみません。本当に、これは偏見なんです。あなたの魂の価値を見る限り、こう言うことも満足にできない人間だと思っていました」
「あのね…」
まあ、そう思われても当然か。
「自分のことは自分でできるようにしたんだよ。最低限生きていけるようには努力した。その分、人のことに頭が回らなくなって、沢山の人を怒らせたし、人のためになるようなこともまったくしてこなかった。僕の魂の価値が無いのは、つまり、そう言うことだろうよ」
押し入れから、折り畳み式のテーブルを出して広げ、軽く絞った雑巾で拭いて、その上に野菜炒め。サトウのごはん。買ってきた茶のボトルを置いた。
「ほら、食べよう」
「はい」
僕と朱里は、小さなテーブルに向き合って座り、少し遅めの夕食を摂った。キャベツとベーコンを炒めただけのそれは、良くも悪くもない味だった。朱里はうんともすんとも言わず、ただ、もそもそと食べてくれた。デザート代わりに、高坂の奥さんがくれたフルーツゼリーをちゅるんと平らげた。
空腹が和らぐと、僕は壁際にもたれかかり、身体の力を抜いた。
「前までは、深夜のコンビニとかでバイトをしていたよ。接客業だけど、この田舎じゃ人も来ないし、それなのに時給は高い。なかなか割に合った仕事だったと思う。後は造花作ったり…」
「やめたのですか?」
「うん。辞めた。金が溜まったからな」
そう言えば…、僕はこの数か月、「金を稼ぐ」という人間が生きていくうえで必要不可欠な行為に、異常なまでに心血を注いでいたことを思い出した。
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