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「というわけだよ」
少し長い話をしすぎて、顎の筋肉がだれていた。
ちらっと朱里の方を見ると、彼女は少し口角を上げていた。
「少し安心しましたよ。あなたにも味方がいたのですね」
「まあ、そうだな」
味方か…。
「僕が一番活力を持っていたのは、母さんのアパートに通う日々だったな」
「じゃあ、どうして、今はこんなふうになっているのですか?」
この女は、人が聞かれたくないことをずけずけと言うな。
僕は傍に置いてあったペットボトルを手に取り、茶を飲んで喉を潤した。
きっちりとペットボトルにキャップをしてから、言葉を継ぐ。
「もう話し疲れたんだ。続きはまた今度だな」
「そうですか」
残念そうな顔をする朱里。
僕は朱里に言った。
「お前の話をしろよ」
「私の話ですか?」
朱里はきょとんと首を傾けた。湿った黒髪が揺れて、ほのかに石鹸の香りが漂った。
「別に、面白い話ではないと思うのですが…」
「それは不公平だろう。僕だって自分の話をしたんだから、お前もやれよ」
「それは願い事ですか?」
「おう、願い事にしてもいいぞ」
その方が、あと二つの願いを考える手間が省けて良かった。
朱里はむっと口を一文字に結んだ。
「なんか癪に触るので、願い事としてカウントしません」
「そうか、じゃあいい」
「いえ、気に入らないので話してあげますよ」
朱里は眉間に皺を寄せたまま、自分のことを話した。
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