第五章『ウェルカムマザー』

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「というわけだよ」  少し長い話をしすぎて、顎の筋肉がだれていた。  ちらっと朱里の方を見ると、彼女は少し口角を上げていた。 「少し安心しましたよ。あなたにも味方がいたのですね」 「まあ、そうだな」  味方か…。 「僕が一番活力を持っていたのは、母さんのアパートに通う日々だったな」 「じゃあ、どうして、今はこんなふうになっているのですか?」  この女は、人が聞かれたくないことをずけずけと言うな。  僕は傍に置いてあったペットボトルを手に取り、茶を飲んで喉を潤した。  きっちりとペットボトルにキャップをしてから、言葉を継ぐ。 「もう話し疲れたんだ。続きはまた今度だな」 「そうですか」  残念そうな顔をする朱里。  僕は朱里に言った。 「お前の話をしろよ」 「私の話ですか?」  朱里はきょとんと首を傾けた。湿った黒髪が揺れて、ほのかに石鹸の香りが漂った。 「別に、面白い話ではないと思うのですが…」 「それは不公平だろう。僕だって自分の話をしたんだから、お前もやれよ」 「それは願い事ですか?」 「おう、願い事にしてもいいぞ」  その方が、あと二つの願いを考える手間が省けて良かった。  朱里はむっと口を一文字に結んだ。 「なんか癪に触るので、願い事としてカウントしません」 「そうか、じゃあいい」 「いえ、気に入らないので話してあげますよ」   朱里は眉間に皺を寄せたまま、自分のことを話した。
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