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「さっき言った通り、悪魔は人間の姿をしていますよね」
「うん、そうだな」
「当然です。もとは人間ですから」
「え…」
さらっと重大なことを言ったな、この悪魔。
困惑する僕を放って、悪魔は続きを話した。
「契約するときに、受付の人から聞きませんでしたか? 『支払いは魂』と」
「うん、聞いた。実際、僕とお前が魂を代償として契約を結んだじゃないか」
「これも聞きませんでしたか? 『魂は、別に自分のものではなくてもいい』と」
「え、ああ? ああ…」
よく憶えていないが、そんなことを言っていたような、言っていなかったような。
おぼろげな記憶を辿る僕を見て、朱里は呆れたようにため息をついた。
「大昔はよく行われたことです。自分の魂の代わりに、奴隷や子供の魂を捧げて悪魔に願いを叶えて貰うんです。そうしたら、契約期間の半年を過ぎても、自分の魂は奪われなくて済むじゃないですか」
そうか、今思い出した。
「でも、あの受付の女、『そんな倫理に欠けたことはほとんど無い』って…」
「ほとんど無いだけです。私がその貴重な実例です」
すると、朱里はぶるっと肩を震わせて、膝を抱えた。目の辺りに影が差し、彼女の白い
顔を浮かび上がらせた。
「私は、母親の願いの生贄になったのです」
「生贄…」
妙に生々しい響きだった。
「じゃあ、悪魔に魂を食われたんじゃないのか?」
「生贄は別です。魂を差し押さえられて、悪魔となって働かされます。悪魔はそうやって種を増やして来たんです」
彼女は「ほら、あの人、知りませんか?」と、日常生活を送っていたら、一度は聞くだろう有名人の名前を挙げた。その人が、朱里の母親だという。
「じゃあ、お前は今、奴隷みたいな感じなのか?」
不意に思いついたことを、朱里に言っていた。
朱里は僕の言葉を聞くや否や、はっとした。
「そうですか、そうですね、確かに、奴隷のような感じかもしれません」
自分の手を見つめる。
「そうですね、奴隷です」
「なにをそこまで納得しなくても…」
「いえ事実ですから」
朱里は別に怒る様子もなく、逆に納得したようにこくこくと頷いた。
「人間が悪魔にされると、下級悪魔からスタートします。悪魔とは名ばかりで、呪力を使って空を飛んだり、人を殺すことだってできません」
わかる。
「だから、沢山人間の魂を喰らって、上級悪魔になる必要があるのです」
「食べたら、上級になれるのか?」
「はい。人間が『頭がよくなりたい』から、ししゃもを頭から齧るのと同じように、悪魔も、価値の良い魂を食えば食うほど、力になります。そこで、自分の魂の価値を上げるのです」
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