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「すみません。申し遅れました。私は、あなたと契約を結んだ『悪魔』です」
「悪魔?」
これには、僕の方が面を喰らった。思わず、少女の容姿をつま先から頭の先まで見る。
「うん、これが、悪魔ね…」
なんか、思ったのと違う。身体中を爬虫類みたいな鱗で覆われて、鋭い牙と爪を持って、しゃがれた声を持った悪魔が来ると思っていた。
「言いたいことはわかります」
あの受付の女性同様、僕の心を読んだように頷く。
「この世界に、あなたが想像しているような悪魔は存在しません。ほとんどが、私のように人間の姿に酷似したものになります」
「ああ、そう」
これはこれでいいのかもしれない。傍らに、化け物がいると落ち着かないもんな。
とりあえず、僕は悪魔の少女を部屋に上げた。
「何か、飲む?」
「いいえ。いりません」
「ああそう」
少女はローファーを脱いで部屋に上がると、ちょこちょこと奥に入っていって、畳の上に正座をした。僕は彼女と向き合うようにして胡坐をかく。
「早速ですが、本題と行きましょう。柏木さん。あなたは、今回、悪魔と契約する際に渡された書類をよく読みましたか?」
「ああ、これね」
僕は部屋の隅に無造作に置いてあった「契約書」のコピーと、「悪魔の取扱説明書」を手に取った。
「もちろん、読んだよ。『人間が悪魔に魂を売る代わりに、悪魔は人間の願い事を三つ叶える』ってね」
「はい。その通りです。私は、あなたの願い事を叶えるためにここにやってきました」
少女は少し僕の方へと身を乗り出してきた。
「早速ですが、最初の願いを言ってください」
本当にさっそくだな。
オレは「ちょっとまって」と言って、自分の顎に触れて考えた。
僕は楽に死にたい。楽に死ぬためには、悪魔に三つの願いを叶えてもらい、それから魂を喰らわれる必要があった。冷静になってよく考えてみれば、僕に三つの願いなんてものは無いな…。適当に、パンやジュースでも買ってきてもらって、願いを済ませてしまおうか? いや、待てよ。手っ取り早く死ぬ方法がもう一つあったぞ。
僕は、今しがた思いついた願いを、悪魔の少女に伝えていた。
「僕を、殺してくれ。できるだけ楽に」
「殺す?」
「ああ、殺してくれ。僕は死にたいんだ。だけど、辛い死に方は嫌だ。。痛みも無く、苦しみもなく、ぽっくりと殺してくれ」
「無理です」
少女の悪魔はきっぱりと言った。
僕は肩をがくっと落として拍子抜けした。
「なんで無理なんだよ? 悪魔は願い事を叶えてくれるんだろう?」
「もちろんです。ですが、私があなたを殺すことはできません」
「どうして?」
「なぜなら、あなたの命…、いや、『魂』は、既に、悪魔と人間との契約の対象となっています。魂は、悪魔である私が、あなたの願いを三つ叶えた後にするので、願い事の時点で奪うことはできません。そうでしょう?」
「まあ、そうだけど…」
完全に出鼻をくじかれたような気がした。
「それに、あなたが一つ目の願いで死んでしまったら、残りの二つの願いをかなえることが出来ません。つまり、これは契約違反になります」
そうか、死ねないのか。
「じゃあ、契約解除だ」
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