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【02:潜入編】
「何しに行くんだ?」
「お話しに。此処の理事長が顔見知りなんだよね」
「やっぱり年輩の土地勘とか、大人間でどんな対立構造があったか知るのって、大事だからね。屋敷は燃えちゃったけど、近い年代の系列の施設を辿る事で手掛かりになるかなって」
◆■
ルビーたんの副業だというブティック?の中でメイクを施され、改めて学園に送って貰ったぼくたちは、どうにか中に潜り込んでいる。
今居るのは、なんか天井が高く、聖堂にでも続きそうな妙に落ち着いた雰囲気の廊下。
「本当に……城なんだな」
天井に抜けて行く足音を聞きながら不思議な気分になった。
そんな場合ではないけど、なんだか文化遺産の観光に来てるみたいだ。
ぼくが感心している横で、まつりは「そりゃそうでしょ、さっき言ったし」と呆れている。
「ちなみに校舎に使われているこの城は創立時に、仲の良い貴族から貰ったもので、某国からそのまま移設されている本物の城なんだってー」
まつりはぼくの混乱をよそに話を続けた。
「へぇ城って移設するもんなんだな」
遮られた事はこの際スルーして、考えてみる、
本物ってことは認知の歪みでも妖界や異世界へのナビでも無いってことで――それはつまり本物である。
「だけどなぜ潜入なんだ? 事前にアポとって、正面から申し込めばよかったんじゃないか」
ぼくもわざわざ女装させられる必要が無いわけだし。
聞いてみると、まつりはバツが悪そうに視線を逸らす。
……?
「アポとかとってたら、盗聴の危険が高くて。余計に危険に曝すかもしれない」
と気まずそうにはにかみながら答えた。
電話の時点で勘付かれて警戒度が上がると余計に面倒な事になってしまう。
しかし電話は基本盗聴されている可能性が高いのだという。
「電話、通信会社に佳ノ宮家の手が回ってない筈が無いから。その気になればすぐ買収するだろうし」
あまり表に出ない話だが、まつりも、恐らくぼくも囲い込みされている。
怨みなど買う必要もなく、意識する前から。 ――――あの夢の中で田中君が言ったような事柄もそう。
実際に映像を常にログとして、幼い頃から取られている。
まつりやぼくのことを何もかも監視していても不思議ではない。
それにただでさえ――屋敷が無くなった今も尚、分裂した佳ノ宮家の勢力はややこしく、それでいて各々があまりにも常人離れしているのだ。
後見人計画のような非人道的計画でも喜んでやってしまう程の団体なのだから、尚更権力闘争に使えそうなものならなんだって引っ張り出して来る筈。
なぜなのか、は、あちら側に聞いて欲しいくらいだけど、それを言われてしまえば「そうか……それがあったんだったな」と、言うしかなかった。
カツン、カツンと、二人分の靴音が響く。
「でも屋敷の中みたいで、落ち着くな」
まつりも嬉しそうだ。
いつも庭くらいしか行ったことが無いから知らなかったけど、屋敷の中は、こんな風だったのか。
中に居るとところはあまり見た事が無かったけれど、やはり家というのはそれでも落着きを覚えるものなのかもしれない。
――――あの場所が無くなって、まつりが今考えて居る事……
なんだろう。
「理事長室、探さないとね」
えへへ、と笑う顔からはあまり読み取れないけど、嬉しいのか、悲しいのか、あるいはすべての感情が綯交ぜになっているのか。
「そうだな」
ぼくはそれだけを答える。
「何度も言って置くけど、殺人鬼の話は内緒だから」
「わかってるよ」
彼女の経歴を知らなかったら、殺人鬼で無かったらきっとぼくは彼女に関心なんて持つ事すら無かったのだが。それを隠すだなんて……
彼女の微かにだけ存在する好きな部分を否定されているようで、少し悲しい。
まぁ、とはいえ誰しもどんな理由でも隠したい事ってのはあるだろう。
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