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7月某日。
過去最高気温だという今年はとにかく暑く、気温は30度を超えている。
佳ノ宮まつり(かのみやまつり)は亜麻色の髪を日傘で隠し、薄手のカーディガンを羽織った格好でふらふらと歩いていた。
これから友人に会う約束の為であり、海、郵便局、釣具店、商店、コンビニと抜け、開けたところの駐車場に向かっているというところなのだが……さすがに夏というだけあって暑い。
日差しで溶けてしまいそうである。
――――挑戦してやる! 吸血鬼!
「……う、ぅ」
ふらふら、歩きながら脳裏に過ったのは、嫌いな旧友の顔。
あれは確かまつりがかつて、地域で「屋敷」と呼ばれる場所に住んでいた頃のことだ。
病弱だった事、肌が白かった事、他人より犬歯が尖っていた事もあって、何人か吸血鬼に例えてきた人が居た。
今より痩せて居て顔色の悪かったまつりは、それが嘲笑の意味で使われていることも不本意ながら承知していて、ずっと内心嫌だったのだが、誰にも言えなかったのだ。
(でも――――)
まつりは先へと進みながら、独り言を零す。
「ね。ナナトは、吸血鬼ってどう思う?」
その腕には、実はさっきからずっと、すやすやと寝息を立てる黒髪の少年が抱えられている。
「……」
よく寝ているらしい。何も答えなかった。
彼とはまつりが『屋敷』に住んでいた頃からの付き合いで名前を行七夏々都と言った。
まつりの見た目にも言動にも不気味がる事も無く、よく遊んでくれたものだ。
その寝顔に微笑みながらまつりは頷く。
「……そうだね。急がなきゃね」
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