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クリスマスマーケットの主な会場であるレーマー広場へは、最寄りのドム・レーマー駅へ地下鉄の乗り換えなしでいけた。駅に着いて、長い長いエスカレーターで昇って地上に出ると、まだ夕方の5時だというのにどっぷりと暗い。辺りには、ちらほらとクリスマスマーケットの明かりが灯っていた。しばらく歩いているうちに、その黄金の明かりはポツリポツリと増え、そのうちに道を歩く人々の数とともにどんどん増殖していき、みるみるうちに赤と青と緑色の渦となり、人々の活気と明るい話し声とともに私たちのもとへ、まるで飴のように捻じれて昼間の明かりのように光って迫ってきた。
「クリスマスおめでとう」
言葉達があちこちで、こだまする。
クリスマスマーケットの中央部分まで行くと、ガヤガヤとした人々の波を待ち受けるように、電飾でできた鹿や風車、赤に金や銀の玉、楽器を持った金の天使等で屋根を飾り立てた木製の屋台がずらりと並んでいた。
お菓子の屋台では「クリスマスおめでとう」や「私に必要なのは貴方だけ」などの文字が入った極彩色のハート形のレープクーヘンが幾つも幾つも吊り下げられている。その下にはクッキーで作られたお菓子の家たちや、飴や白砂糖のかかったアーモンド、さまざまな色や形のキャンディが並び、店の奥には飴やチョコレートがかかったリンゴや洋ナシが棒に刺さって置いてあった。
さまざまな色の蜂蜜や、飴色の蜜蝋でできた蝋燭の屋台。各諸侯の紋章や中世の人々の様子を美しく描いた、蓋付きのビールジョッキや水差しを売る店。紅いリボンと金色の玉の付いた作り物のモミの枝や、子供が雪遊びをしている様子を描いた白い陶器の玉、ピカピカの緑色に光るカエルの人形といったクリスマス飾りが並ぶ屋台もある。ここではツリーの飾り付けをする日は、伝統的にイブの12月24日だ。そして24日の夜に子供達はプレゼントを開ける。だからアドヴェントの期間に、人々はマーケットでクリスマスツリーの飾りや子供達へのプレゼントを買っておくのだ。
クリスマスピラミッドと呼ばれる、四本の蝋燭の熱で天辺のプロペラが回ると、下の階段状になった台の中にある天使や聖書の偉人の人形たちが合わせて回る、木製の飾り物。薄い木を幾重にも重ねてくり抜いて、冷たい雪の降る森の様子を描いた半円の蝋燭立て。眼鏡を掛けてクリスマスツリーとプレゼントを両手に抱えた、毛皮の縁取りの付いた重厚な刺繍の衣装を纏った大きなサンタクロースの人形。
どの屋台も暗い闇の中に、ポゥ…と妖精たちの光の中から、いっせいに出て来たように浮かんでいた。
口髭を生やしたくるみ割り人形たちが、こちらでは黒と金の帽子に金釦の付いた赤い洋服に黄色いズボン姿でブーツを履いた正統的な恰好をし、あちらでは緑の帽子にビールジョッキとプレッツェルを持った服装で、私たちを上目づかいに窺っている。隣の屋台では、おどけたクルミの顔に毛糸の帽子や白い頭巾を被ったプラム人形たちが手招きをしていた。
広場に入ると、真ん中が2段になった大きな回転木馬がクルクルと回り、市庁舎前のリボンと電飾で飾られたクリスマスツリーの下まで行くと、キラキラした光の波が「わっ!」と私たちを取り囲み、なだれ込んでくる。ああ、そう、ここはクリスマスマーケットなのだ。もう一度納得した意識に、これでもかと少々暴力的に笑顔のサンタクロースやクリスマスの鹿、天使、星、蝋燭、金や銀や赤や緑のクリスマスの飾りたちが、再び私たちに向かって満面の笑顔で畳み掛けてくる。
子供たちが多勢群がっているから何だろうと思って覗いて見ると、大きな丸い鉄板が天井から吊るされ、中で4種類のソーセージが香ばしく焼けているところだった。チーズマスタードのかかったオニオンフライを食べているカップルや、エッグパンチを手にした老人。暖かい湯気の中のアップルワインの屋台では、顔を赤くした中年の男たちがヘッセンなまりのドイツ語で怒鳴り合っていた。マジパンの店では四葉のクローバーと天道虫を持った幸運の豚たちが、ニコニコとしながらそんな人間たちを見守っている。
チョコレートや砂糖、キャラメルやココナッツフレークが掛かった雪玉を模したお菓子の屋台に、赤いリボンの掛かったシュトーレンが積まれたお店。ネジや鍵、スパナやバイオリンにチェロといった日用品と楽器を模したチョコレートの屋台に、四方八方に角を伸ばした大きなモラヴィアの星や月飾りの屋台。それらがみんな、光の中で燦然と輝いていた。
クリスマスマーケットの湯気と金色の光、そして人々の喧騒が織りなすグニャグニャとした独特の雰囲気に飲まれて、私も沈んだ気持ちが少しだけ晴れて陽気になってくる。
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