殺人

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 たったの――というところに思わず力が入った。事実を淡々と伝えるというより、記者の個人的な思いが前面にあふれ出た感じだ。  少し離れたところで聞いていた若者二人のうち、がっしりとした筋肉質の男の方が、顔をゆがめてうつむいた。唇が噛みしめられる。  その肩にもう一人の若者が慰めるように手を置いた。こちらは長身で細身の若者だ。  玄関前では、他局の記者たちも次々に飛び出してきて、テレビカメラの前に立つ。いずれの顔も紅潮し、興奮を抑え切れない様子だ。 「町田市で起きた女子高生姉妹強姦殺人事件の控訴審判決が出ました。その犯行の残虐さから一審では死刑判決が下りましたが、控訴審では一転、情状酌量が認められ懲役6年の判決。弁護側の主張がほぼ容れられた形となりました」 「予想を遥かに超える軽い量刑です。二審から主任弁護人を引き受けた(ひいらぎ)弁護士の法廷戦術が功を奏したということが言えそうです」    どの局も、一審と二審における量刑の乖離(かいり)を驚きをもって伝えている。
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