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 木下の住むマンションビルを出た反町は、日の沈みかけた六本木の街を一人歩いた。  肌を刺すような二月の寒気に思わずぶるっと身を震わせる。だが心の中は春の穏やかな日差しが降っていた。  気のせいだろうか、街並が先ほどとは違った色合いに映って見える。  人工灯がともりはじめたせいだろうか。    それとも、出所以来、ずっとよそよそしかった都会の風景が、徐々にではあるが、自分に寄り添い始めたのだろうか。  立ちすくむような不安が、ゆっくりと蒸発していくのを感じる。  日比谷線六本木駅の表示が見えてきた。  地下に降りようとして、ふと立ち止まった。思い直してそのまま地上を進む。ひとつ先の駅まで歩こうと決めたのだ。  もう少し、街の風に吹かれてぶらつきたかった。  華やかに着飾った人々が、地下から地上へと吐き出されてくる。人の群れを縫うようにして彼は進んでいく――。    その脳裏で、これまでとはまったく異なる旋律が生まれようとしていた。                         (了)  
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