プロローグ

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 ラノリス王国には献身騎士という習慣がある。己の主とは別に特定の婦人に誓いを立てて、その守護を請け負うのだ。  まぁ率直に言えば、愛人を公的にしただけというのが現状だろう。色々な劇の題材になったりする。  そして王女イーリリーズにも献身騎士がいる。それが赤髪の騎士コルビーだ。というか俺だ。  生まれは普通の騎士家。だったのだが、多分幸いなことに俺には武才があった。楽しいと思ったことは無いが、気がつけば次期筆頭騎士だの言われているので相当なものだろう。  戦場でもどこでもぼーっとしていくうちに過ぎていく時間。  俺は喋るのが面倒だ。欠かしたことは無いが訓練も面倒だ。逃げたこともないが戦争も面倒だ。  客観的に考えると多才過ぎたのだろう。努力も面倒なだけで、やらなければならないのなら一日中ハルバードを振り回せる。  まぁいい人生で結構なことだと自分でも思う。そんな自分が何故献身騎士かと言うと…… 「コル様! 赴任先が決まりましたわ!」  バァァァン! とでも擬音が付きそうな扉の開け方で登場したお姫様のせいだろう。  赴任。赴任?  王族が赴任というとまぁ儀礼的な役目か何かだろうと思った矢先に、この子はとんでもないことを言い出す。  いつもそうだ。 「シャマンダス女伯爵に叙爵されましたの!」 「……は。おめでとうございます」 「そう言ってくれると思っていました! 愛しのコル様! 二人でシャマンダスに赴き、良き君主になりましょう!」  ……シャマンダス? 記憶から掘り起こすと、そこがとんでもない土地だと思い出す。元は重要な土地だったが、古戦場となってからは怪物が跋扈する魔境だ。  隣接する土地の人口が万を超える中、二千人程度しか住んでいないと言えばその荒廃ぶりがうかがえる。  つまりは明らかな嫌がらせ。なぜそんなことを……あ、理由は俺だ。  イーリリーズ……リズは知り合ってからずっと俺と仲良くしている。もう結婚していておかしくはない年齢の今でも、俺以外の男は寄せ付けない。  つまりは貴族としての政略結婚を放棄しているということで……まずい。危険だ。今回はリズの起こした嵐では無い。俺とリズ、二人で大回転させた大竜巻だ。 「早速準備をしましょう! 何が要るかしら~」 「まぁ……リズ様が行くところには俺も行こう。準備はお付きの方と相談してください。俺は俺で同行者をあたってみます」 「はい! 明日出立ですわね!」  早いよ。しかし、彼女が起こす嵐は俺も嫌いでは無い。  
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