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毎度の別れ
シャマンダスの城。その中枢とも言える大広間には、シャマンダスの紋章が描かれている。盾を青と白に分割し、星とライオンが描かれている。
一体どんな由来でこのような紋章になったのか……なぜだろうか? 書斎など見るのも面白いかもしれない。
そして、その紋章の下で……
「ああ、コル様! リズを置いて、早くも旅立たれてしまうのですか? わたくしの半身がもがれたのと同じです!」
こっちはこっちでどうしてこうなったのか。理由は分かっている。どうせ寝る前に読んでいる書籍に感化されたのだろう。
これで悪の道に走らないあたりは凄まじい才能だと認めざるを得ない。
「……ああ、リズ。私も辛い。君という星から離れ、星座の輝かぬ地に赴かねばならないのだから。しかし、我らにはこの地を栄えさせるという崇高な使命がある。それが出来るのは私だけなのだよ」
なんだこれは。俺の方は完全なる棒読みである。
どこの誰がこんなセリフを思いついたのかは一目瞭然。メイドのナールが遠くから石柱の横に麻紙に書いた文章を出してくる。
努力の賜物だろうが、作れるあたり実はあの女中頭もおかしいのでは無いのだろうか。
一方、こちらは自分のことを俺と言わないだけでムズムズする体たらくだ。
「ああ……みなまで言わないでください……貴方の胸の内は分かっております。気高く清廉な騎士の息吹を感じます。それでも、愚かな私は貴方という騎士の腕に抱かれていなければ夜も眠れないでしょう」
「心配にはおよびません。例え離れていようと、上にある星は同じ。私は必ず貴方の許に戻ってくるのですから」
誰かこの謎の茶番を止めろ。というかリズのロマンスっぷりは王都にいた頃よりも凄まじい。
もちろん、常にこうではないが……何かのきっかけがあると妙な芝居が始まってしまう。
ひょっとして、俺は出撃するたびにこれをしなければならないのだろうか?別の意味で身がもたない。
「コル様……わたくしは星に祈ることしかできませんが、貴方の帰りを天が落ちようとも待っております……」
地味にリズも私からわたくしになっているが、気にならないのだろうか。たっぷりとこの甘ったるい時間を味わってから俺はようやく解放された。
俺のセリフを考えたナールの顔は、りんごのように赤くなっていた。にやにやしているウィラを叩こうとすると、あっさりと躱された。
珍妙な気分を持て余しながら、俺は城を離れて領内の散策へとようやく旅立った。
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