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 シャマンダスの城で姫君は黄昏れていた。考えていることも、その気分も彼女を知っている者なら誰でも分かる。 「コル様……今頃、どんな危険に立ち向かっているのでしょうか……」 「危険って……」  とうのコルビーの部下でもあるウィラは顔を少し引きつらせた。このお姫様は自分の騎士がどういう存在か分かっているのだろうか?  ウィラの戦い方はやや変則的ではあるが、真剣勝負に慣れた騎士相手でも五分に戦える。その自分のプライドを木っ端微塵にしてくれたのが、コルビーという騎士だった。 「大丈夫ですよ。僕が保証しても良いです。貴方の騎士はどんな存在にだって負けはしません」 「ウィラ殿……そうですわね! わたくしもコル様に相応しく、この地を花園に変える努力をいたしましょう!」 「あ、はは……」  だからそのために、コルビーは出発したんだって。その言葉を飲み込んでウィラは考えを切り替えた。自分でなにもしないような人でないだけマシかも知れない。  熱意のあるバカはもっともたちが悪いが、それすら置いて諦念の境地に入るしか無かった。  一方、当のコルビーはようやく村に到達していた。荒涼な大地が似合う、中央なら廃村と呼ぶだろう村だった。村長は諦観と抜け目なさそうな目を両立させたような老人である。  多少大きな家でしかない村長の家でコルビーは困りごとを聞いた。 「根付いた盗賊ですか」 「ええ、はい……廃墟を根城にして、襲ってきては収穫物を持っていくのです」  話を聞いたコルビーはまぁ大体そんなところだろうなと考えた。同時に村も一方的な被害者というより、その連中の縄張りに入っていることでもっとひどい連中が来るのを阻止する狙いがあることも察した。  王宮の人はあまり想像しないが、貧民というのは意外に賢い。困りごとを聞いた時の村長の決断は賭けに近かったはずだ。  つまりコルビーを送り込んで、コルビー……村長の常識では“コルビー達”が賊を排除すれば領主側にすり寄る。できなければコルビー達のせいにして、ついでに立派な鎧をくれてやる気でいる。ついでに預けた馬もだろう。  コルビーはそうした処世術を悪いとは思わない。代官代理をわずかな期間努めた経験がそうさせた。豊かな村の抜け目なさと比べれば可愛いほどだ。 「承りました。報酬は……」 「はぁ……」  老人の目が細くなる。おそらくは涙を出す準備でもしているのであろう。 「場所までの案内人と、行っている間の馬の世話。それに行く場所までの行き帰りの糧食で」 「……は?」  思わぬ言葉に、老領主は目を見開いた。ほとんどただで行っているようなものだからだ。  実際、コルビーとしてはリズのために支持基盤になってほしいという以外に報酬が欲しいとは思わない。  賊を根こそぎにすれば勝手にそうなることも知っていた。 「これは領主たるイーリリーズ様のお慈悲。我はその命に従っているだけのこと。疑問は不要に願います」  準備ができたら出立すると言ってコルビーは立ち上がった。
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