繰り返す

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起きた。 そこには見慣れた天井があった。 体の水分が全て出てしまったのではないかと思うほどの寝汗と涙で、シーツがぐっしょりと濡れている。 何が起きたのか、何が起きているのかと、髪をかき上げて肌を拭う。 ガタンと音がして過剰に跳ね上がる心音を感じるが、 開いた扉から「おとーさん?」と心配げに覗き込む娘に、松川はとにかく笑顔を作った。 頭にこびりついた熱さと痛みに眩暈を感じながらも、これが夢か現実か確かめる必要があると思考はフル回転していた。 朝のルーティンを済ませながら、家の中で使えそうなものを探し、ロウソクのセットやら保冷剤やらをクーラーボックスに詰め込む。 あれが夢だったならば、このクーラーボックスも笑い話にできるだろうなどと、車にそれらを載せる。 制服を着た娘は、私服の自分を怪訝そうにしながら見つめているが、「今日はちょーし悪いから休む。」と言ってしまえば納得して車に乗り込む。 運転する道には当たり前に朝の通勤ラッシュがあり、人も車も光も、全てが揃っていた。 娘を小学校に送り出し、手を振って友達の元に走っていく様子は日常そのもの。 花壇で揺れる花々が目について無意識に視線を高くあげるが、屋上には誰の姿もない。 ここまで、行動に多少違いはあるが繰り返される朝のルーティンは4回目になっている。 もう一度あの夢の世界へ行くことになるのか、当たり前のようにその可能性を加味しているが悶々と疑問は残っていて、その為にも黒川や賤川と連絡を取る必要はあるように思えた。 — もし、推測が正しいなら、衽はあの夢のことを覚えているし、伊吹姫はあの夢のことを覚えてない。 ならば、先に連絡を取るのは衽の方が都合がいいはずだ。 娘が建物に入ったのを目視で確認してすぐ、もう一度車に乗り込むと、今度はまず黒川に電話を掛けた。 「おう。おはよ。」 「‥‥随分冷静だね、、」 「その反応だと、あれはやっぱりただの夢じゃないな。」 「足は?」 「あぁ、何ともない。ってか正直あの瞬間何が起きたのか俺にはわかってなくてな。」 「‥‥知らない方が良いこともあるよ。」 言い淀む黒川に、これ以上の詮索は不可と見て、松川は話を続ける。 この不可解な現象を回避できるのか否か判断する必要があるが、その為にはどうしたらいいのか。 それは夢を繰り返してきた二人にとってはとても重要なものだった。 黒川は一連の話を聞くと、意を決した様子で話し出した。 「さっき日付みてさ、最初に夢を見た日からやっぱ動いてないんだよねぇ。 って事は、あの夢に入ってしまってから俺たちの時間は前に進んでないって事になる。」 「‥‥終わりのない悪夢をずっと見続けていると判断するべきか?」 「あーー、、、うーん、その方がしっくりは来るかな? 今こうやって電話をしてるこの状況も、すでに夢の中って事だよね?」 「ああ、あの異空間も今のこの空間も同じ夢の一部で、俺達は本当には目を覚ましてない。 って考えた方がまだわかりやすいだろ。」 思案している様子で唸っている黒川の電話口からゴソゴソと動く音がする。おそらく家を出る準備をしているのだろう。 しかし、ふと、その手が止まった様子で雑音が途切れた。 何か言いにくそうにしながらも、黒川は次の言葉を繋げていく。 「まっちゃん、あのさ。 やっぱりさ、俺としては気にしちゃうんだよ。 あの時、ごめんね。」 突然謝られて、鉄砲玉を受けたみたいに松川も動きが止まる。 謝られた理由を探すがパッとは思い付かず、首をかしげるが、黒川から「お腹もう痛くないや。」と追加するように告げられた情報で、黒川が自分に似た何かを撃ったことを気にしていると推測を付けることはできた。 なんと言葉を掛けるべきか詰まってしまうが、どれだけ考えた所で、黒川が気にしてしまうのは分かる。 ならば、客観的に見て思うことを伝えるしかなかった。 「んあ?‥‥あー、、 まぁ、気持ちがわからないわけじゃないけど、俺は気にしてねぇって 誰がどうだからとか、何がどうだからなんて理由は、どうせ大層なもんじゃねぇ。 何をしても何をやっても、それを罰せんのは法律だけだ。」 松川の返答は一貫していた。 気にしていない。 それは、相手を否定するわけでも肯定するわけでもなく、ただ自身として意識の範囲外である事を伝えていた。 そして、何よりも自分もそうであってほしいと願う気持ちの現れだった。 「‥‥うん、ありがとう。」 「おう。まぁ、どうしても気になるってんなら、 どっかで挽回してくれや。」 「わぁーテキトーじゃん。」 「俺は気にしてねぇからなぁ。」 「はいはい、‥‥さて、どうしようかな。」 「一つ提案なんだが。」 松川が淡々と説明をすると、黒川は了解を返して外に出る準備を再開した。 「!?お、おくみさん? お、おはようございます、、早いですね、、」 「良い挨拶だね。ありがとう。」 「は、はぁ??」 黒川は警察署に出勤した。 周囲の当たり前がすでに3度目である事実が嫌に身に染みて気持ちは落ち着かない。 それでも貼り付けた笑顔は、仲の良い同僚達以外にはバレる事はなかった。 いつもよりも随分と早く出勤したが、洗車するために出勤していた賤川はすでにパトカーの隣に立っていて、やはり夢については覚えていない様子だった。 黒川は「いつもありがとう」と早口に告げると賤川の肩を叩いて助手席に座るように勧める。 困惑しつつも、何か意図がある事は察したのか賤川はそこへ腰を下ろす。 「あの、いくらなんでももう交番に行くのは早いと思うんですけど、、」 「あー、まぁ、そーなんだけどね?待ってると思うし、確かめたい事もあるから。」 「智治さんは?」 「今日はおやすみ。」 そう言い終わると黒川は運転席に着いてシートベルトを引っ張った。 意味をわかっていない賤川を連れて、その車は平凡な道を急ぐ。 どこまでがこの繰り返す夢なのか、今はわからない。もしかしたらあの曲がり角に行かなければ、もうあの怪物達に会うことはないのかもしれない。 自分達の時間も進むのかもしれない。 それでも、あの瞬間が頭から離れないのだ。 確かめなくてはいけない。 この悪夢の正体を。 脳裏に浮かんだのは、あの燃え盛る幼児の姿だった。 松川が足の焼けた人形に触れた後、三人は思わぬ形でその怪物に襲われた。 「智治さん一応ズボン捲って足見せてくださいよ。」 「おう。」 松川は賤川に言われ、左足のズボンの裾を捲った。 しかしそこにはなんら変哲の無い足を見えるだけ。 「意外と毛薄いんですね。」 「そこかよ。」 黒川から見ていると、ちょうど賤川の頭を松川が軽く小突いた時だった。 向こうから誰かが走ってきたのだ。 その勢いは凄まじいもので、両手を広げたそれが異常な状態なのは一目瞭然だった。 真っ赤な火花の跡を残しながら、それは真っ直ぐ交番に向かってくる。 「!!まっちゃん!!姫ちゃん!!交番の奥に!」 「えっ?はっ!?何だあれ!!?」 「ヒィッ!!」 それは、真っ赤に燃えた子供だった。 焼け焦げて原型を止めていない様なのに、まるで蝋燭の芯の部分だけ燃え尽きずに残った様な体が尋常でないスピードで向かってくる。 燃え盛るそれは高く火柱を揺らしていて、松川と賤川が逃げるのは到底間に合いそうにはなかった。 「入れ!伊吹姫っ!」 「智治さん!!」 「馬鹿野郎!!智治っ!!!」 黒川が焦ってあだ名で呼ばなかったことなど、あのお人好しの耳には届いていなかったろう。 松川は賤川を庇う様にして向かってくる人形の前に立ったのだ。 それは咄嗟の行動だったのか、それとも分かっていてやったのか、どちらにしても相当な勇気がないと出来ることでは無かったろう。 しかし、それを純粋に褒めたくは無かった。 燃え盛る子供は松川に向かって飛びついてくる。 まるで親に両手を広げてもらった子供の様に無邪気にその腕は松川の左足に巻きついた。 そのままの表現で、本当に巻き付いたのだ。 その腕は細長く形を変え、嫌にリアルな骨が折れる音と共に、顔だけを残して子供の原型さえも崩れてしまった。 炎が松川の足を焼いていく。 服が燃え、皮膚が焼け、焦げ臭い匂いが立ち込め、 松川がその場に崩れ落ちる。 「か゛っあ゛ぁぁぁあ゛ーーー!」 絶叫と共にカクンと力の抜けたその身を庇われた賤川が抱き止める。 その身をグッと引くときにカランっと顔から眼鏡が地面に落ちた音がした。 その瞬間、ほんの一瞬、賤川も強い恐怖を感じたようだったが、炎の暑さで思考の全てが後回しになったようで、賤川は咄嗟にその炎に触れた。 結局は熱の高さに耐えきれずすぐにその手を引っ込める形になったが、それでも状況の打開に打ち込もうと、顔を上げる。 「衽さん!水を!」 「うん!そのまま抱きとめてて!」 「はい!」 絶叫は一瞬で、意識の落ちた松川はピクリとも動かない。 たまにある痙攣の様な動きが痛みから来る反射であれば、まだ助かる道はあった。 炎は不思議と左足だけを焼いていて、賤川や、松川の上着、右足の服を焼くことはなかった。 黒川が外に置いていた洗車用のホースを蛇口に繋ぐと、そのまま松川の足へとその水を出した。 意外にも脚に移った火はすぐに消火されたが、くっついている子供の様な原型のない火のナニカは、まだ炎を燻らせていた。 「まっちゃん!!!」 「智治さんっ!!!!!」 「しっかりして!!おい!ねぇ!まっちゃん!!」 「衽さん!氷は!!」 「電気止まってるから溶け切ってる、とにかく水で冷やすしかないっ!」 炎が消えてもずっと水をかけ続ける。 それが処置として正しいかどうかなど、二人に判別をする余裕はなかった。 とにかく火種を燻らせるこの異形の物体が離れない限り、その水を絶やす訳にはいかなかったのだ。 「っ!!!うあ゛っ!!!」 「まっちゃん!起きた?痛いよな、痛いよね、でも目を閉じるな!閉じないでくれっ」 「な゛に、何が、」 「混乱してますね、衽さんはそのまま話しかけててくださいっ、落としたメガネ取ってきます。」 賤川は松川が起きたらしいのを確認するとそっと落ちた眼鏡を拾いにいった。 それはひどいヒビが入っていて、掛けても充分に前を見る事はできそうになかった。 一瞬、賤川の中で何かがフラッシュバックして真っ赤な眼鏡がイメージに浮かぶ。 いつそんなものを見たろうか、全く思い出せないが、それでもなにか確信めいたものを感じてそっと二人を振り返る。 自分の代わりに松川を抱き止める黒川と、朦朧とした意識の中で混乱する松川。 この光景を知っている様な感覚がジワジワと恐怖を煽ってくる。 「姫ちゃん、水もう少し増やすよ。俺がこいつを引きばかすから、手伝って。」 「あっ、はい!!」 そこで夢は途切れた。 黒川自身、この受け入れ難い状況は繰り返されるものでない事が一番良いのだが、 それでももし繰り返されるというならば、巻き込まれるかも知れない同僚達を放っておく事は出来ない。 それが再度この道を選んだ理由だ。 運転する車は夢と同様に道路を移動する。 もうすぐ、この夢の分岐点であるあの曲がり角に着く。 「姫ちゃん。姫ちゃんは何も覚えてない?」 「脈絡なさすぎでしょう、、何のことですか?」 「うーん説明が難しいんだけど、 もうすぐ曲がるでしょ?」 「はい。」 「そこを超えたら様子を見て説明するから、それまで俺のわがままに付き合ってくれる?」 「‥‥わからないけど、わかった事にします。」 「ありがとう。」 そこから黒川は夢の話を始めた。 淡々と口を開くその動きは滑らかで、まるで事件の概要を説明する様に、日常的な光景のまま語られていった。 動揺する賤川を横目に、それでも進み続けるパトカーは例の曲がり角手前で赤い信号に止められた。 本当は賤川を連れてくるべきではないのだろうが、おそらく自身が連れて来なくても、賤川はここに来ることになる。 その確信は、ついさっき松川と一緒に確信に変えたものだった。 「さて姫ちゃん。 この角を曲がったら、さっき言った夢の世界だよ。 人形と怪物の話は頭に入ってる?」 「は。はぁ、、?」 「真面目な話なんだよ。入ったね?」 「‥‥まぁ、理解はしました。」 「オッケー」 黒川の笑顔と共に車は動き出す。 進めを意味する青信号をこんなに恨めしく思った事はなかったが、不思議と恐怖は無かった。 その先にあるものは理解していたからだ。 「な、なんですか?これ?」 賤川の声が車内に響く。 そこには真っ黒な空、光のない世界があった。 何度も夢で見たその世界がそのままそこに広がっていたのだ。 車を止めれば、それは相変わらずもう息を吹き返す事がない鉄屑に成り下り、 正面の道の真ん中には私服姿の松川智治が立っていた。 「遅かったな」などとつぶやく松川は、片手に持ったバットを賤川に向かって投げる。 車を降りてすぐだったが、よろめきながらもそのバットを受け取り、賤川はもう一度あたりを見渡している。 「どうだった?」 「人形はそこにある。 ここに迷い込むかどうかも、さっきお前と試した通りだ。 大体構造は一緒で世界の終焉って感じだが、 見繕えるものの基準は見つけた。 ”電気器具以外は有効“だ。」 淡々と話す松川は近くに停めた自分の車へと向かうと、クーラーボックスを肩にかけて戻ってきた。 車自体はパトカー同様に動かなくなっているようだが、松川も黒川もそれを気にすることはない。賤川だけが動揺していたが、少なくとも信頼を寄せる二人が堂々としているのを見て、逆に気持ちは落ち着きを持てた。 「説明してもらってもいいですか?」 「おお、わりぃ。夢の話は衽から聞いたか?」 「まぁ、ざっくりと、、」 「十分だ。まぁ、お前に話す前にな、 俺と衽で、二つだけ確認したいことがあって試してみたんだ。 一つは、この角を曲がる事が異空間に入る条件になっているのか。 もう一つは、俺達が必ずこの異空間に入れられるのか。」 「交番に向かうまでの道のりはもちろん一つじゃないからね。 ここ以外のルートで異空間に行く事があるのか試したの。 あとは、3人揃っている時に今まで異空間に飛ばされていたから、 揃ってない時に、一人でという状況でちがいがあるのか。ってね。 本当はちょっと不服なんだけど、まぁ、まっちゃんが折れてくれるはずもなくなってね。」 淡々と説明する二人に、賤川は深いため息を吐くが、そこまで考えて二人が行動しているということは、夢や人形の話は本当なんだろうと信じるしかなかった。 松川と黒川は、二人で電話を繋いだ状態で、交番までのルートや、この鬼門である曲がり角に自分達以外に不可解に姿が消える人間はいないのか、一人で入っても結果は変わらないのか確認した。 結果、交番までの他のルートで異空間に入ることはなかったし、自分達だけがこの異空間に入っている事もわかった。 松川は黒川にクーラーボックスの中身を見せた。 そこには包帯やら保冷剤に加えて、網やシーツ、ロウソクや野球の硬球まで入っていた。 とにかく使えそうなものは全部詰め込んだと言った様子で、黒川は中身を見るとクスクス笑った。 松川は黒川のベルトから引き抜いた警棒を手に取った。動きに問題がない事を確認すると、自分のベルトに引っ掛ける。 「1回目、2回目の夢は、 この交差点からさ程遠くは離れてなかったが、 人形に触れてから襲われるまでの時間は多少1回目の方が空いていた様に思う。 でも3回目は明らかに人形に触れてから襲われるまで時間に大きな差があった。 それは化け物の出現地点からの距離に差があったからじゃねぇかと思う。」 松川はそういうと、クーラーボックスから地図を取り出した。 ペンで人形を触った地点と曲がり角に印を付ける。黒川も賤川もその地図を覗き込んで納得している様子で頷いており、松川はそれを確認すると話を続けた。 「怪物はおそらくこの曲がり角に現れる。 人形はあくまでも怪物の出現する為の鍵だ。」 「‥‥なんだかいよいよ話が夢っぽくなってますね。」 「まぁ、信じろって方が無理だろうが、空見てみろ。此処が現実じゃないのは間違いない。 夢の中にいるんだと思って行動してみろ。」 「ハハ、達観してらっしゃる。」 賤川は引き攣った笑顔でもう一度バットを握りしめる。 もともと剣道道場の次男である彼にとって、それは警棒や拳銃よりかは手に馴染むが、イメージできる使い方は元来のバットのソレとは違う。 黒川は拳銃を迷いなく手に取ると軽く調子を見てまた仕舞う。それは、これから事件の現場に向かう刑事の様に凛としていた。 真逆に松川は私服という事もあってか、その様は刑事というよりも犯罪者に近いほどの威圧を放っていた。 「さて、姫ちゃん。こっからが大事だよ。 今回人形触るのは姫ちゃんだから。」 「えっ!?俺?」 「正直、まだこの夢のループから正しく脱出する術はわからないんだ。 でも、俺達がこの曲がり角を鬼門に必ず夢に入ってしまう事を思うとね。」 「話したかどうか知らないが、この夢を覚えているのは人形に触れた奴だけだ。」 「‥‥つまり、俺にもこの夢を覚えて、次のループに入った時に迅速に対応できる様にしてほしいと、そういう?」 「ご名答、ごめんね姫ちゃん。」 困った顔で謝る黒川は、本気で不本意な様子だが、賤川は案外簡単にそれを了承した。 理由など簡単だ。 「これがただの夢なら次はないし、次があったときにその方が俺が動きやすいんでしょ? んじゃ、この判断は俺のためでもあるって事ですよね?」 「お前がそう受け取ってくれんならありがてぇ」 ほっとした松川の顔に賤川は少し挑発的な笑みで応えた。 「やってやる」と細かな仕草から漏れ出るその活気は若さゆえか、、 本当は怖がりな彼を知っている上司二人からすると、その強がりは心配ではあるが心強く思える。 そこから、3人は捜査を再開した。 実際三人のうち刑事の経験があるのは松川だけだが、それでも警官として必要な知識は持っている。 「この世界はなんだ?って所はおそらく考えた所でわからねぇ。 それでも、この世界”だからこそ“あの怪物が現れるんだとしたら、 この世界に無いものが弱点って可能性はないか?」 「そもそも、倒したところで夢のループが終わらないんじゃ意味がないよね。 このループは何のために存在してるんだろう。何か変化はあった?自分達の、あと、この世界の変化が糸口にはならないかな。」 「この曲がり角が、出入り口になっているのはなぜ? この場所自体に意味があるなら、それさえわかれば効率的に対応できるんじゃないですか?」 何が正解か、 変化はあるのか、 弱点はあるのか、 効率的か、 糸口は、 可能性は、 3人はそれぞれの違う着眼点を混ぜ合いながら話を続けていく。 体感でしか3人には分からないが、手早く済まされたその会話から、一つの正解に辿り着くことは難しいという判断に至った。 つまりまだ、情報が少ないのだ。 しかし、その中でも一番必要な選択肢をまずは選ぶ事にした。 「まずは、可能性のある情報は全て集める必要がある。」 黒川は大きく伸びをした。 肩の力を抜いて空を見る。相変わらず暗い世界に逆に安堵を感じつつ、視線を二人に向けた。 視線が合った松川が頷いてノートを広げる。 それはさながら捜査会議に使われるホワイトボードだった。 その書き出された情報を読みながら、松川は賤川を見る。 「調べんのが主に三つ。 この曲がり角に関する情報 人形に関する情報 そして怪物に関する情報 現状は詳細に絞らず全般的に調べて行こう。」 理解できるものであるならば、それに対処する術はある。 決して足を止める事はない。 止めた時、おそらくその時が、それぞれの人生の終わりだ。
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