憧れのRED

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憧れのRED

『憧れのRED』  扉を押し開こうと手を掛けたとき、後ろに続く人物が小さくため息を吐く気配がした。 「今日はわかっていただけるでしょうか」 「そうだな。今日こそは」  短く言葉を交わし開いた扉の向こうには、すでに多くの者が集まっていた。しかし誰も素顔を晒してはいない。  色とりどりのマスクで、あるいは獣の、または昆虫のような覆面で顔を隠し、服装すらそれに合わせて誂えたスーツで、完全に個を拭い去っている。  それは二人も同じで、赤と青の出で立ちで会場の中を進む。 「今夜もいい夜だな」  その発言は一段高い壇上の、これまた全身赤でまとめた人物のものだった。会場中に響く声量は、彼がこの場のリーダーであることを物語っている。 「今日こそはお聞かせ願いたい。あなた方は一体何に怯えておいでか?」  挑む口調で壇上の人物を見据えて声を張れば、相手は「なにも」と答えた。 「ならばなぜ、この状況を捨て置くのですか? あなた方は我々より経験も実績もおありのはずだ!」 「燃えるような情熱をどこに置いてこられたのです!」  赤の男の後を継いで、青い男が声を荒げる。 「現実を見なさい」  静かでありながら会場を揺るがす圧を持った声だった。 「それはこちらの台詞です!」  赤い男も負けてはいない。負けられないのだ。負けることは許されぬ戦いを、これまで幾度も繰り広げてきた。  今もそうだ。ただ今回は敵の正体が見えない。  敵のわからぬ何とも不思議な、泥の中で足掻くような戦いをしている。  光に満ちていたはずの『世界』はいつの間にか闇に閉ざされ、希望の音のようなふれあいは徐々に減り、今では皆無に等しい。その原因も、この状況を作り出したであろう敵の姿も見出せず久しい。そして極めつけは、尊敬する諸先輩方の敵前逃亡とも取れる態度だ。 「現実を、見なさい」  先程と同じ台詞を、今度は慈愛を持って壇上の人物は口にした。  そのことに二人は少なからず動揺した。 「真実を知ることだけが解決策ではないだろう。しかしそれは、ここにいる誰もが辿った道だ。そしてこれからの道もまた、誰かが先に歩いた道なのだろう」 「おっしゃっていることが、わかりません!」 「ならば、聞きなさい。行く道が運命というならば、喜んで進もうではないか。我々の任務は、ともにあり。ともに過ごし。ともに泣き。ときに見守り。ときに導き。その成長を喜び祝福し、いつか来る別れを受けいれること。――わかるか? 我々の任務は完了したのだ」 「いえ……」 「そうか、それも無理もない。君たち二人には時間がなさ過ぎた。酷なことかも知れないが、君たちにもそのときが来たなら、我々とともに――」 「なぜです?」 「愚問だよ。それが運命というだけだ」 「運命など! あなた方はこれより過酷な状況を覆してきたではありませんか!」  その言葉に、表情は見えずとも壇上の男は微笑んだようだった。 「この運命には逆らうべきではない。『子ども』はいつか己の世界を広げ、旅立っていく。そのとき胸にあるのは我々『玩具』じゃあない」 「こ、ども…‥? おもちゃ?」 「かつての子供は、幼い頃憧れたヒーローの姿を胸に大人になってゆく。我々は同行を求められはしない。だからこそ、引き際が大事なんだ」 「ひきぎわ……」 「そうだ。今この『世界』は岐路に立っているということだ」  壇上から下り『レッツゴー☆戦隊』隊長レッツゴー☆レッドは、最近主人であるの所有となった『ギャラクシー戦隊』リーダーギャラクシーレッドの元に歩み寄った。 「ヒーローは去り際こそ、カッコよくなければならない。そうだろう?」  マスク越しにぶつかった熱い視線に、ギャラクシーレッドは急に腑に落ちたあれこれに、俯いた。
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