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「浩美、お帰り。ん?ちょっと痩せてしまったか?でも大丈夫だ、またお母さんのご飯を食べたらあっという間に元通りだからね」
仕事から帰ってきたお父さんは、椅子に座って絵を描いていた私の頭を優しく撫でた。
大工をしているお父さんの手は、ゴツくて大きくてそしてあったかい。
「あ…」
すんっと鼻を啜ってしまう。
泣きたいわけじゃないのに、ただいまって言いたいのに。
こんなに泣いてしまったら、きっとお父さんも心配する。
「そっか、そっか…今夜はサーモンのグラタンなんだな。しばらくはご馳走が続きそうだな」
私の絵を見て、さらに頭を撫でてくれた。
ご馳走…お父さんはお母さんが作るご飯は、全部がご馳走だと言っていた。
“大好きな人が心を込めて作ってくれるご飯は、ご馳走に決まってる”
それがお父さんの口癖。
結婚して20年以上も経つのに、いまだにことあるごとに“大好き”を言い合う夫婦は、珍しいんだと一人暮らしを始めてから、知った事だった。
家にいる頃は、それが当たり前だったから。
「ただいま!あ、姉ちゃん、おかえり」
「あ、ん…」
ただいまが言えない、もどかしい。
「やったね!今日の晩飯はご馳走だ!グラタンに生ハムサラダにかぼちゃのスープだ!あ、俺はご飯大盛りだからね、母さん」
弟の太一は、高校3年生。
また背が伸びた気がするな。
家族が4人揃って、やっと私は帰ってきたと実感した。
_____誰も私を問い詰めたり、ひどく、いたわったりもしない
きっと今の私は家にいた頃の私とは違う。
それでも“そんなことはなんでもないよ”と言われてるようで、うれしかった。
こんなに幸せな家にいたんだなぁ、私。
何を食べても味を感じなかったのに、その日のご飯はとても美味しかった。
やっぱり、お母さんのご飯はご馳走だと思ったら、また涙があふれてきた…。
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